危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

 これまで、東日本大震災時における保育園での津波避難に関する記事をご紹介し、「避難訓練の重要性」「実際的・実践的な避難訓練の在り方」について触れました。
 今回は、宮城県の小学校における津波避難の実例(記事)をご紹介するとともに、これまでに触れた「避難訓練」から一歩踏み込んで、「学校に求められる危機管理」について考えてみたいと思います。

 ご紹介する実例(記事)は、読売新聞(6月13日付)に掲載されていたもので、東日本大震災で全校児童の約7割にあたる74人が死亡・行方不明になった宮城県A市立のB小学校における、地震発生から児童らが津波にのまれるまでの詳細な状況が市教育委員会や助かった児童の保護者らへの取材で明らかになった、というものです。
 記事の概要は、学校側が具体的な避難場所を決めていなかったことや、教諭らの危機意識の薄さから避難が遅れ、さらに避難先の判断も誤るなど、様々な「ミスの連鎖」が悲劇を招いた、といった内容です。(※実際の名称、氏名等は伏せています。)
宮城県内の津波被害2
< 東日本大震災時の宮城県内の津波被害 >

 A市教育委員会の調査などによると、3月11日午後2時46分の地震発生時は、児童は下校中か「帰りの会」の途中だったそうで、校舎内の児童は教師の指示で校庭に集合し、学年ごとに整列、下校中の児童もほとんどが学校に戻ったとのことです。
 午後3時頃に点呼を終えると、教頭と数人の教諭が桜の木の下で、「山へ逃げるか。」「この揺れでは木が倒れるので駄目だ。」などと話し合っていたとのことです。津波を想定した学校の避難マニュアルでは、避難場所については「高台」としていただけで、具体的な場所を記していなかったそうです。
 また、津波被害を受けた周辺の5小中学校のうち、1校には避難マニュアル自体がなく、作成していた4校のうち1校は、避難場所を「校庭」としていました。
 一方、防災無線からは大津波警報が鳴るとともに避難を呼びかける声が響いており、相次ぐ余震への不安から泣き出したり、嘔吐したりする子もいたそうです。また、保護者らが続々と児童を迎えに訪れたため、教諭はその対応にも追われ、現場は騒然とした雰囲気になっていたようです。
 ある母親によれば、母親が担任に「大津波が来る!」と慌てて伝えた際、担任は「お母さん、落ち着いてください。」と話したにとどまり、すぐに避難する様子はなく、「危機感がないようだった。」と証言しています。
 また、暖を取るため、焚き火をしようとした教諭もいたとの証言もあったようですが、市教育委員会は確認できなかったとしています。
 市教育委員会の調査では、その後、市の広報車から「津波が松林を越えてきた。高台に避難してください。」と呼びかける声が聞こえたそうですが、この時も、教諭と集まった地域住民の間で「山へ逃げた方がいい」「山は崩れないのか」などのやり取りがあったそうで、結局、約200メートル先の北上川堤防付近にある、堤防とほぼ同じ高さ(6〜7メートル)の高台に避難することになったとのことです。
 避難を始めたのは地震から約40分後の午後3時25分頃で、約10分後の午後3時37分頃、6年生を先頭に、学校の裏手から北上川沿いの県道に出ようとしたところで波が襲い、高台ものまれたとのことでした。

 今回の東日本大震災のように、大規模な地震や津波等の災害が発生した場合、死傷者の発生や授業への障害が生じるなど、学校に直接的な影響を及ぼす数々の事態が生起します。また、この記事からも明らかなように、危機時にその対応を誤ると、学校の社会的批判や信頼の失墜につながるといった状況に陥ることになります。したがって、事態に即した的確な対応ができるよう「組織としての備え」が必要であると考えます。
 災害対策基本法等の根拠規定などから考えると、学校の防災上の責務は、
第1に、防災体制の整備や地震発生時の避難・誘導、救出・救助、消火活動等により学生(児童)、職員等の安全を確保すること
第2に、避難者保護、救助・救急、人的・物的支援により地域の防災に寄与すること
であると思われます。
 これらのことを踏まえると、学校としての危機管理の基本は、
〜干愿な危機管理体制の構築
危機の態様に応じた対応基準(対策)の確立
6疑Πの危機意識の向上のための教育・訓練
ぢ寮の点検・見直しの仕組みの構築

の4項目になるのではないかと思います。
 そして、そのために具体的に実施すべき事項としては、
ヾ躓ヾ浜マニュアル(避難マニュアルを含む。)を作成する
教育・訓練を実施する
H鷯鑞冏品・物資等を備蓄する
せ楡濺の安全点検を実施して安全化を図る

ことであると思います。
 なお、学校としての防災・危機管理対策をより効果的にするには、学生(児童)個々人が防災や危機管理に対する意識を持っていることも非常に大切な要素であることから、「防災講座」といったような講演や講話等による普及教育の場を設け、防災・危機管理意識・能力の醸成・向上を図っていくことも必要であると考えます。
 今まさに、学校は、防災・危機管理のために必要な様々な要素を具体的に検討するとともに、それを確実に実行していくことが求められているのではないでしょうか。