危機管理業務部長
 山本 忠雄

 弊社は、政府や都県、区市などの自治体の防災訓練の企画・運営や地域防災計画の作成などの支援をしているが、その中で防災担当者の悩みや防災上の問題点を伺い、また、訓練等の現状を直に見て、「このままで良いのだろうか」と憂いを深くすることが多い。
 その一つが、東日本大震災という未曽有の災害を経験したにもかかわらず、依然として防災訓練、とりわけ、災害対策本部の運営に係る図上訓練が低調なように見えることである。
東日本大震災(女川町の被害2)
< 東日本大震災時の宮城県内の被害 >

 総務省消防庁が平成20年に行った調査によると、過去5年間に図上訓練を実施したのは、47都道府県のうち41(87.2%)と高率であるが、市町村になると実施したと回答したのは、アンケートに答えた1,732市町村のうちの609(35.2%)のみであった。平成7年1月の阪神・淡路大震災以降、訓練の重要性が叫ばれ、訓練の実施に踏み切る自治体が増えたのは間違いがないとは思うが、それにしても低調であると思う。
 なぜなのであろうか?図上訓練の実施に及ぼす要因について考えてみる。

 1つ目の要因は、組織の問題である。
 市町村の規模が小さくなればなるほど防災担当職員も少なくなり、総務課などの中に3〜5人程度の人員で防火や交通安全なども兼務しながら防災体制の整備の業務を担っているというようなところもある。これでは訓練をやりたくてもなかなか実行は難しい。

 2つ目の要因は、防災に携わる職員の問題である。
 図上訓練を企画・運営するには訓練構想の検討、訓練実施計画の作成、関係部局・機関との調整、訓練の運営、成果の取りまとめと反映など、専門的な知識とノウハウ、そして多くの労力が必要になる。しかし、自治体には、これを兼ね備えた職員も充当できる職員も十分にはいない。

 3つ目の要因は、図上訓練を実施するために必要な経費の確保が難しいということである。
 専門業者に委託をして自治体の本部運営の図上訓練をある程度の規模で実施するには、概ね100〜300万円が必要になる。しかし、財政規模が小さい自治体ではこれを捻出するのは難しいのが現状であろう。

 そして、4つ目の要因は、その自治体の防災意識の問題である。
 首長や職員全体、さらには議員の防災意識が高くないと訓練を実施することは難しい。部外の力を借りてでも訓練を実施するためには、これらの防災に責任を有する人たちが指導力と実行力を大いに発揮し、防災担当者の訓練実施意欲と体制整備を後押しする、具体的には人と予算の裏付けを与えるということが必要である。

 昨年、内閣府の委託を受けて「地方公共団体における受援計画の策定に係る調査・検討業務」のお手伝いをした。その中で、東日本大震災で大きな被害を受けた県や市町村に災害対応についてのアンケートやヒアリングを実施したが、その教訓を一言でいえば、まさに平素の準備ができていなかったということに尽きる。
 訓練はやったつもりになっていた、地域防災計画やマニュアルで示されていたように各部局が動いてくれなかった、避難所や物資集積所の指定も担当職員の手当もマニュアルも訓練もないままにあの地震と津波を迎えてしまった―悲壮ともいうべき悔悟の言葉であった。

 自治体は、「住民の生命、身体、財産を守る」という重大かつ崇高な責務を有しており、これは至上命題として最大限の体制づくりと確実な災害対応が実行されなければならない。しかしながら、自治体の中には「防災は防災部局がやるべきもの、恒常業務が手一杯で訓練をしている暇がない、防災訓練の重要性は分かるが訓練に参加するのはしんどい」などという雰囲気が蔓延しているのが現実である。
 一方、自治体の中には、例えば、静岡県のように訓練の企画・運営を通じて防災担当職員を育てるという考えで、何人かの職員が大変な努力と時間をかけ、自前で訓練しているところもあるが、それは是としつつ、それでも訓練は部外専門業者に委託したほうが良いというのが、5年間にわたって静岡県防災局(現危機管理部)で勤務した私の結論である。
 それは、図上訓練を部外委託した場合、
/Πの訓練計画の作成、準備、成果のまとめ等の時間、労力を軽減し、本来(災害対策本部要員として
 の)業務に関する研究等を行う時間の余裕を持つことができる
⊃Πを訓練統制要員に充てることを最小限にし、プレイヤーとして訓練させることができる
F睇瑤良塰、抵抗を気にすることなく、実践的な訓練を実施ることが容易になる
ど外者の目で客観的な評価を受けることができる

などの効果が期待できると考えるからである。
 これは裏を返せば、自前で訓練をすることはこのような課題があるということである。

 防災体制を効果的に整備するためには、計画を立て、訓練をし、課題を検証し、改善するというPDCAサイクルを実践することが重要である。
 弊社は、図上訓練は、現実に危機を経験することなく、災害対策本部の要員等の災害対応能力を向上させ、計画等の実行性を検証・改善して、災害対策本部の防災体制の整備を効果的に実施するための最善の方法であるとの認識の下、ロールプレーイング方式の本部運営図上訓練等を得意としている。
 自治体の特性と現状に合わせた段階的、実践的な訓練などにより、近い将来に起こるであろう大規模震災等に対応できる体制の整備に貢献したいと念じ、防災訓練の部外委託を進めている次第である。