危機管理業務部 主任研究員
 前之園 敏雄

 平成23年3月11日、14時46分頃、突然の大きな揺れにグループホームのリビングで壁につかまりながら、『立たないで!大丈夫だから!』と認知症の入所者様に声をかけつつ、天井を見上げていたのを記憶しています。
 地震が起きたら、屋内にいるときは、丈夫な机やテーブルなどの下に!と子供達に教えてはきたものの、この時はさすがに『動かないで!』、「天井よ、崩れるなよ!」と、揺れが収まるまでの長いようで短い時間を過ごしていたことが、昨日のことのように思い出されます。
 私は、平成17年に陸上自衛隊を定年退職し、総合防災ソリューションで防災・危機管理に関わる仕事を約5年弱経験した後、千葉県内の認知症対応型共同生活介護(グループホーム)で勤務したのですが、この日は、そのグループホームに勤務して間もなく1年を迎えようとしていた頃でした。
 「介護の仕事をしてみよう」と思ったきっかけは、定年前に遠距離介護のことを書いた本に接し、遠く離れた故郷の九州の地で暮らす両親のことで自問自答し、いつかは介護が必要になるだろう、その時に介護の知識や経験があれば少しでも役立つのではないだろうかと考えたことが理由のひとつです。
介護施設イメージ
< 介護施設のイメージ >

 昨年の12月8日、NHK総合で放送されたNHKスペシャル「救えなかった命 双葉病院 50人の死」を見ました。
 この番組を見ながら(当時)直感したのは、同じような状況が生起した場合、果たして、ここ(グループホーム)で生活されている18名の認知症高齢者を無事避難させ、避難先での安全で安心できる生活の確保、そして、再び18名の方々といつもの介護スタッフで帰ることができるのだろうか?という思いでした。

 千葉県北西部の千葉ニュータウンに居住してから約20年が経ちました。九州出身の私にとって、千葉県は第2の故郷といえます。
 東日本大震災後、各地方自治体では、この大震災を教訓に地域防災計画を修正しています。3年前の総合防災ソリューションでの最後の仕事が、首都直下地震を想定した九都県市合同防災訓練・図上訓練で千葉県を担当したということもあり、ここで、最新版の「千葉県地域防災計画」をひも解いてみたいと思います。
 タイトルを「今、再び、危機管理の世界へ、介護現場からのUターン」と掲げていますので、「災害時要援護者」に焦点をあてて引用させていただきます。

災害時要援護者等の対策の推進
 東日本大震災では、死者の多くを高齢者が占めるなど、大規模災害に際して災害時要援護者が犠牲になる割合が高いことが明らかとなった。
 県は、様々な防災対策を講じる上で、高齢者、障害者、難病患者、妊産婦、又は外国人などの災害時要援護者や女性に配慮した対策を推進する。
○災害時要援護者避難支援プラン(個別計画)の策定
 県民及び市町村は、災害時要援護者の所在の把握に努め、自治会や町内会などの地域全体で一人ひとりの要援護者に対し複数の支援者を定めるなど、具体的な災害時要援護者避難支援プラン(個別計画)の策定に努める。〔拡充〕
○福祉避難所の整備及び指定
○災害時要援護者の移送支援
○災害時要援護者や女性に配慮した備蓄の推進


 以上が、「千葉県地域防災計画の修正の概要について」に記述されている災害時要援護者等の対策に関わる事項です。
 本来ならば、さらに、災害時要援護者避難支援プランの個別計画及び直接業務を担う市町村の地域防災計画にどのように具体化されているか、ひも解いていくべきところですが、次の機会にチャレンジしたいと思います。
 上記計画では、災害時要援護者を「高齢者、障害者、難病患者、妊産婦、又は外国人などの災害時要援護者や女性」ととらえています。
 「・・・外国人などの災害時要援護者」の「など」は、なんだろう?と引き続き、検索していたところ、「千葉県の災害時要援護者・避難支援の手引き(平成21年10月)」に、さらに、具体的に災害時要援護者について、記述がありました。

災害時要援護者の範囲の例示と主な特性(抜粋)
 災害時要援護者を「高齢者」以下16とおりに区分し、さらに、高齢者を,劼箸衒襪蕕靴旅睥霄堙、⊃欧燭り高齢者等、G知症の高齢者等に区分しています。
 それぞれ主な特性が記述されていますが、ここでは、「認知症の高齢者等の主な特性」についてのみ引用させていただきます。

認知症の高齢者等の主な特性
○記憶力の低下、時間や季節の感覚が薄れる等の見当識障害、妄想、徘徊などの症状がみられ、自分で判
 断し行動することや自分の状況を説明することが困難です。
○単独での避難生活が難しく、徘徊して思わぬ場所で予期せぬケガ等を負う恐れがあります。
 と記述されています。
 因みに、認知症の高齢者は増加の傾向にあり、2002年には149万人でしたが、2012年には305万人と10年で倍のペースで増加しています。65歳以上の10人に1人が認知症であり、2025年には470万人に達すると推計されています。

 平成25年4月から総合防災ソリューションに復職して感じたのは、東日本大震災等の教訓でしょうか、避難に関わる業務が増加しているという点です。
 その中で注目したのは、福岡県で実施された原子力災害広域避難訓練(実動訓練)が挙げられます。
 原子力災害時の広域避難を迅速かつ円滑に行うため、原子力発電所から30km圏内の住民を対象とする避難訓練として、A市の社会福祉施設入所者をB市の社会福祉施設に避難させるという訓練です。実に、A市とB市は40kmの距離にありますが、実動の訓練を行っております。
 また、現在、神奈川県にある社会福祉施設(介護付き有料老人ホーム:一般型特定施設入居者生活介護)の防災計画・対応マニュアル作成業務を実施中であり、6月頃には、この計画に基づいて検証訓練を実施すると聞いております。

 私がグループホームで勤務していた間に経験したのは、認知症高齢者9名の介護ですが、一人として同じ症状の方はいませんでした。
 ホームヘルパー2級の資格を取得するにあたって2日間の施設実習があるのですが、実習生に「何故あの方はここにいるのですか?」とよく質問されました。認知症高齢者の中には、一見、健常者と見間違う方がいるためです。
 しかし、多くの方が薬を常用しています。車椅子の方もいます。排泄が一人でできない方もいます。入浴も最低限、見守りが必要です。
 前述の千葉県の災害時要援護者・避難支援の手引きに関して言えば、災害時要援護者が16とおりに区分されるのであれば、少なくとも、16とおりに区分された災害時要援護者の対応に精通した支援要員が必要かと思います。
 健常者であれば、実際的な訓練ができます。「説明すること」や「やってもらいたいこと」を理解してくれるものと思います。
 しかし、残念ながら、災害時要援護者(認知症高齢者)はそうではありません。僅か3年間のグループホーム勤務経験しかありませんが、認知症高齢者を対象に避難訓練を実動で行うことは、困難なことと思われます。
 また、ここで忘れてはならないことは、認知症の高齢者を介護するスタッフの主力は女性です。東日本大震災クラスの大災害が発生した場合、彼女たちの守るべき第一は「家族」であり、認知症の高齢者ではないということです。過言かもしれませんが。
 認知症の高齢者は、家族との同居も困難な状況になりつつあります。避難が必要な場合、家族に一時的に引き取ってもらうことも対策の一つかと思いますが、介護スタッフの同行は必要欠くべからざることであり、介護スタッフが後顧の憂いなく、認知症高齢者の介護に従事できる体制も災害時要援護者の対策を進める上で重要なことであると思います。

 現在、私が担当している支援業務の訓練テーマに、「避難(特に災害時要援護者支援)の状況及び要望把握」があります。これから業務を進めていく中で具体化していくわけですが、少しでも3年間の実経験を活かすことができればと考えています。
 そして、今年の目標(夢)は、来年、名刺に【介護福祉士】と記載できるようにすることです。

※参 考
 介護保険法において「認知症対応型共同生活介護」とは、要介護者であって認知症であるもの(その者の認知症の原因となる疾患が急性の状態にある者を除く。)について、その共同生活を営むべき住居において、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことをいう。
 要介護者であって認知症であるものについて、共同生活住居において、家庭的な環境と地域住民との交流の下で入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにするものでなければならない。