代表取締役社長
 山本 忠雄

 政府や自治体においては、災害が発生した場合には、上司への報告や報道機関等への情報提供のために、被害状況やそれへの対応等が文書としてまとめられることがある。特に、地震等の大規模災害が発生し、災害対策本部を設置して対応した場合においては、その最初の段階から終了までの活動の期間において、活動状況等を取りまとめた文書が作成されることが多い。
 例えば、政府においては、平成23年3月11日14時46分に東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生した際には、15時37分から第1回緊急災害対策本部会議を開催したが、この会議では、15時15分現在で官邸対策室が「宮城県沖を震源とする地震について」と題して取りまとめた、|録未粒詰廖↓∪府の主な対応、H鏗仮況とともに、「災害応急対策に関する基本方針」が報告された。また、16時過ぎに開催された2回目の会議では、「宮城県沖を震源とする地震について(第3報)」が、19時00分からの3回目の会議では、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震について(第5報)」が報告されている(図1)。
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【災害対策本部「取りまとめ報」作成の意義】

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 この日の3回の会議で報告された、いわゆる「取りまとめ報」は、地震発生約50分後の1回目の会議では1ページちょっとしかなかったが、2回目(約1時間10分後)3ページ、3回目(約4時間半後)8ページと内容が充実していき、12日の朝8時半(約18時間後)に開催された4回目の会議では23ページになっている。そして、地震発生3日目となる14日朝の会議では本部取りまとめ報37報が53ページ、各省庁の取りまとめ報も合わせると約160ページにも上る資料が報告されている。このような、いわゆる「取りまとめ報」は、政府においては地震に限らず台風等の風水害などの際にも作成されている。
 また、被災地である岩手、宮城の各県でも、その内容は、被害状況や各部・関係機関等の活動状況が主で、各部・機関等の報告資料をホッチキスしただけというものではあったが、一応本部会議資料(取りまとめ報)を作成する努力はなされたようである。
 取りまとめ報とは、「災害発生時において、災害対策本部が作成する、地震等発生から作成時点までの被害状況や災害対策本部及び関係機関等の活動や取組み(災害応急対策)等の状況をまとめたものである」(これについての明確な定義はなさそうである。)(図2)。
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【平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震における
政府の災害対策本部の会議の開催及び報告事項の状況】

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 それでは、災害対策本部の「取りまとめ報」は、どのような意義があるのであろうか。
 まず第1は、災害対策本部における最高指揮官たる本部長等への状況報告、判断を仰ぐための資料になるということである。
 本部長に適時適切な状況判断をしてもらうためには、今どのような状況で、どのような課題があり、どのような対策を採るべきかという判断材料を総合的に整理して提供することが必要である。
 それはまた、本部要員たる部長等に対して被害や本部活動全般の状況についての認識の共有を促し、災害対策本部として一体的、総合的災害応急対策の推進が可能になるであろう。
 第2は、災害対策本部の災害時広報の原典(準拠)になるということである。
 大規模災害発生時においては、地震動や津波、火災等の危険から民心は動揺し、不安定となる。住民の生命と財産を守り、被害を最小限にすべき責務を有する行政もまた被災し、活動が制約されることから、災害対応にあたっては住民の協力、国や他の自治体等からの支援を得ることが極めて重要になる。
 したがって、災害対応を主導する立場にある行政から、何が起き、今どのようになっているのかということを、住民や内外の機関等に適時適切に発信することが必要である。災害対策本部や防災関係機関等による会議で審議された取りまとめ報は、被災住民の不安感を解消して災害対策本部への信頼感や協力機運を醸成し、かつ国や自治体、災害ボランティア等に対して被災自治体の状況の把握を容易にし、支援の必要性を認識させるとともに、支援活動を促すことにつながるであろう。
 第3は、災害対策本部の災害対応活動の記録として災害終息後の検証に活用されるということである。
 災害大国である我が国においては、一つの災害が終息をしたとしても災害対応に終わりということはなく、次の災害への備えを固めることが求められる。災害対策本部の活動の記録は、今後の災害への備えを検討するための貴重な戦記、戦訓として、本部活動の反省や教訓の把握を容易にし、マニュアル等の見直しの資料となる。また、防災体制の不備や課題の把握を容易にし、地域防災計画の修正や防災対策の見直しを図るための効果的な資料となるであろう。

 自治体の災害対策本部運営の図上訓練支援で感じることは、本部会議資料(取りまとめ報)の意義についての認識が不十分で、作成しようという意識が薄く、備えるべき内容についての理解がなく、しかも、作成の手法に習熟していないということである。
 前に述べたように、東日本大震災の被災地である岩手、宮城の各県でも本部会議資料が作成されていたが、その内容は、地震や津波の状況、人的被害、各部局の状況というように、被害状況や各部・関係機関等の活動状況が主で、各部・機関等の報告資料をホッチキスしただけというもので、本部としての災害への対応状況や災害応急対策への取り組みの考え方などが表されたものではなかった。
 災害が大規模であればあるほど被害が大きい半面、情報も入らず、職員等の本部活動も制約されるであろうことを考えると、災害対応で混乱を極めている時に、報告事項の取りまとめなどしていられない、「取りまとめ報」などを作っている暇などないと言われそうである。
 しかしながら、取りまとめ報は、今述べたような極めて重要な意義を持っているのであるから、状況不明、態勢混乱の中にあっても、何が起こっているか、行政としてどのように対応しているか、これからどうするのかという、住民への安全・安心情報として、また、国や関係機関、他の都道府県、県内市町村等への情報提供の観点から総合的に、かつ時間の経過・状況の推移に応じて逐次内容が充実・網羅されていくようにまとめられ、発信されることが必要である(図3)。
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【地震発生時において災害対策本部から発信すべき情報】

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 訓練の場では、被害状況の提供をもって災害時広報を実施しているかのように勘違いをしているのではないかと思われるような場面が見受けられるが、被災住民にとってより重要なのは被害状況ではなく、当該自治体などがどのような対応をしているか、住民としてどうすれば良いのかというような安全・安心に係る情報である。
 したがって、災害対策本部が取りまとめるべきものは、地震・津波の発生の事実やそれによる被害の状況だけでなく、災害対策本部の活動体制や災害応急対策の実施状況、警察災害派遣隊(広域緊急援助隊)、緊急消防援助隊、自衛隊等の部隊や災害派遣医療チーム(DMAT)等の要請や活動、避難所や救護所等の開設状況、さらには二次災害防止に係る事項などであるべきと考える。
 そして、繰り返しになるが、それが広報資料の原典(根拠)となって内外、特に住民に発信されることにより、被災住民の不安感を解消し、かつ災害対策本部が実施する災害応急対策活動への協力機運を醸成することに繋がることが期待されるのである。
 災害対策本部活動の重要な機能の一つとしての「取りまとめ報」の意義を認識し、訓練等を通じて、その作成に習熟することが必要である。