危機管理業務部 主任研究員
 松田 拓也

 5月のゴールデンウィークも終わり、ほとんどの皆さんが仕事に復帰したことかと思います。まだ休みボケした頭をたたき起こしている方もおられるのではないでしょうか。
 連休中には、弊社の本社がある東京都千代田区で震度5弱を観測する地震が発生したり、行楽地の山や海で事故のニュースが報道されるなど、色々な事故や災害が起こっていましたが、特に連日のニュース番組を賑わせていたのは、4月16日に発生した韓国旅客船沈没事故に関連するニュースでした。
 今日は、この韓国旅客船沈没事故における危機管理をテーマに書いていきます。
 ただ、これは、いまだ不正確な情報が飛び交う中で、報道されたニュースのうち私が見聞きしたものだけを根拠に記述するものですので、あらかじめご承知おきください。
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< 旅客船のイメージ写真 >

 さて、今回の事故の対応等における大きな問題点は、以下の4点に集約されると思われます。
〇業者の責任放棄
⊇蘰阿涼戮
正確な情報提供の不足
ちデの安全基準軽視


 まず、「〇業者の責任放棄」についてですが、何よりも船長が一番先に逃げ出したということが問題でした。
 通常、人は何か大きな事故が起きた際、「そんなに悪くなるはずはない」「私が死ぬわけがない」と偏見や先入観で考えてしまいます。社会心理学の分野ではこれを「正常化バイアス」と呼んでいます。これは多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとする働きのことです。
 この働きは、人が日々の生活を送る中で生じる様々な変化や新しい出来事に心が過剰に反応し、疲弊しないために必要な働きであり、すべての人間に見られることです。
 また、「集団同調性バイアス」が起こっていたとも考えられます。これも社会心理学や災害心理学の世界で言われていることですが、これは集団でいる際には他者の行動が影響を及ぼし、適切な行動をとることができないことを意味しています。自宅にいる時に大きな地震があった時はすぐに避難路の確認をしたりする人でも、会社や学校で起きた時には机の下に潜らない。誰もがこのような経験があるのではないでしょうか。
 おそらく旅客船の乗客のほとんどはこのような状態であったのではないかと思われます。乗客の高校生が撮影した船内の映像をニュースで見ましたが、そのような状況が見られました。
 この2つのバイアスを取り除くためには、信頼性のある者の指示が不可欠です。家庭であれば家長が、会社であれば社長や上司、店にいた場合は店舗の責任者が「危険なので避難しろ」と発信することで、このバイアスを取り除くことができます。
 今回の旅客船沈没事故では、この責は船長が担うものでした。しかし、ご存じのとおり、船長は真っ先に逃げ、乗客には船内に留まるように指示を出していたようです。
 この責任者が責を果たさなかったことが、死者267人(5月6日現在)という大惨事に至る一つの要因であったと思われます。

 次に、「⊇蘰阿涼戮」についてです。
 乗客からの通報を受けた海洋警察署が、乗客に対して正確な緯度経度を求めるなど適切ではない対応があったようです。また、救助に向かった船やヘリも乗務員の不在などにより到着が遅れ、到着した船やヘリも救助設備の無いものだったようです。
 通報連絡の対応や初動における活動について、体制やマニュアル等が整備されており、それが確実に実行されていれば、救助者数を増やすことができたのではないでしょうか。

 次に、「正確な情報提供の不足」です。
 これは、事故対策本部などからの情報が不正確であり、また的確に訂正がなされていないことにあります。大統領や海洋警察が被害者家族に殴られるなどのニュースがありましたが、この不正確な情報提供は、政府や海洋警察の信頼を失墜させるに十分なものでありました。
 事故発生から4時間半後の4月16日昼に、政府は368人が救助されたと発表しましたが、3時間後に164人に訂正し、実に204人も誤差がありました。救助作業員の数や出動艦艇・航空機数についても大幅に誤りがあったようです。また、船内への酸素注入やダイバーが船体進入に成功したといった説明も嘘でした。
 多少の誤差であれば許容できますが、ここまでくると提供する情報すべてに信頼が置けなくなってきてしまいます。
 正確な情報提供を行うためには、まず正確な情報を収集し、現状を的確に把握すること。次に、対応のために自らの組織が保有する勢力・装備を把握すること。その上で取るべき対策を決定し、その方針を情報提供することなどが必要です。情報提供の場は決して希望を述べる場であってはなりません。

 最後に、「ちデの安全基準軽視」です。
 これは、違法改造や過積載、コンテナの未固定、操舵設備の整備不良、救命ボートや救命胴衣の不足などであり、これが守られていなかったようです。当然のことですが、これらは最低限守っておくべき事項です。

 長々と書いてきましたが、この他にも運航会社の対応や官僚の癒着、遺族対応の不備など様々な要因が関連していると思われますが、どうやらほぼ全てヒューマンエラーによる事故であり、明らかな人災といえるでしょう。
 今回の事故対応を反面教師として、日常生活や今後の業務に役立てていきたいと感じました。

 最後になりますが、今回の事故でお亡くなりになった方々のご冥福を心よりお祈りいたします。