危機管理業務部 研究員
 山之内 正和

 先日、佐竹悦子氏の講演を拝聴することができました。ご存知の方も多いと思いますが、佐竹氏は、3.11の東日本大震災時は、宮城県名取市の閖上保育所の所長をされていて、保育所の職員とともに保育所の子ども達54人全員を津波から無事に避難させた方です。
 講演では、「悪夢の日 3.11」と題し、「東日本大震災から3年 被災者として 支援者として」を副題として、津波から避難した自身の経験を踏まえ、講演参加者にしっかり伝えようと熱心に語ってくださいました。奇跡的な避難活動をされた閖上保育所の行動については、当時のニュースで報道されていたこともあり、個人的にも非常に興味を持っておりましたので、大変光栄に思いつつ講演を拝聴いたしました。

 講演の概要は、名取市や閖上地区の被災状況、避難の様子、その間の子ども達とのやり取り、保護者への引き渡し、仮設住宅での活動などのエピソードを紹介しながら行われ、平素の備え、避難する際の着意事項や心構え、避難所での暮らしの実態など、様々な対策と教訓事項を追体験できるものでした。
 子ども達の「命を守ること」を保育士の使命として、地震発生から僅かな間に避難を決心し、職員に対して簡潔で確かな指示を行ったリーダーシップ。そして、そのリーダーシップは、平素の準備に裏打ちされたものであることに、特に感銘を受けました。
 54名の子ども達を引き連れて避難を行い、最後の児童1名を保護者に引き渡したのは、発災から4日後とのことでした。
 避難中は、我が身の生命を脅かす危険が迫る中で職員一丸となって、子ども達の安全を第一として行動し、恐怖と不安で怯える子ども達及び職員の不安感の払しょくに努め、避難所を小学校の体育館から児童センターなどに移転しつつ子ども達を大切に保護したとのことでした。
 後日、確認した閖上保育所は、津波の被害により、見るも無残な状態になっていたとのことで、まさに一瞬の躊躇も許さない津波の脅威を物語っていると感じました。
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< 津波により甚大な被害を受けた名取市閖上地区 >

 閖上地区は、海岸に面した標高の低い平野が広がっている地域であり、安全な避難先としては約2km離れた閖上小学校まで避難しなければならず、足の弱い幼児を連れての避難行動なので、自動車を使用して避難したそうです。この間、他の避難車両により渋滞が予想される変則5差路の交差点などの主要な県道などは避け、農道を利用するなどして行われたそうです。
 ここで重要なポイントは、これらの行動が咄嗟の思いつきで行われたことではないということです。佐竹氏は、保育所長として着任以来、防災マニュアルをしっかり確認され、各種災害を想定したうえで避難経路・避難場所を直接確認し、問題事項を洗い出してマニュアルを修正し、そして、訓練で実際に行動するなど、普段から検証に努めておられました。つまり、この実際的かつ事前の訓練・検証の成果により、巨大津波から子ども達の尊い命を守ることができたのだと思います。佐竹氏も講演の中で強く述べられていたことですが、「マニュアルを作って安心では、ダメ!」ということです。

 私は、この講演を拝聴し、実際の災害から大切なものを守るためには、
マニュアルの内容を知ること(ない場合は作成する)
▲泪縫絅▲詁睛討訓練(体験)しておくこと

そして、
マニュアルの不備事項を把握・修正し、より確かなマニュアルとすること
これらを
ぅ汽ぅルとして繰り返し続けていくこと
いわゆるPDCAサイクルが大切であることを再認識した次第です。

 東日本大震災では、宮城県全体で約10,000人が犠牲になり、このうち、名取市内で911人が犠牲になったわけですが、地震発生から約66分後に名取市に津波が到達しました。名取市の犠牲者の死因の多くは津波です。名取市では、海岸線から約5kmも津波が浸水しました。平地が広がる閖上地区等では、高い建物がほとんどなく、避難所が遠く、高齢者がいるなどの理由で車による避難を行わざるを得ませんでした。多くの人が市の中央部に避難しましたが、この間、停電で信号が機能せず、渋滞が発生し、通れない箇所もありました。閖上地区では、大通りに避難車両が集中して渋滞が発生し、津波に巻き込まれた人、車を捨てて逃げた人、咄嗟に裏道を通り助かった人などもいたようです。
 後日、現在の名取市がどのような対策をとっているのかを確認したところ、「名取市民防災マニュアル」を作成していました。この中に、閖上保育所の教訓が記載されていましたので、最後にご紹介しておきます。

●閖上保育所の率先避難
 海岸線から約500m地点にありながら、1人の犠牲者も出すことなく、子ども達全員(54人)の生命を守ることができました。
 保育所では、大地震の際には車で閖上小学校に避難することを決めており、毎年行われる閖上地区の防災訓練に参加していました。

●津波から避難するときは、原則「徒歩」! 車での避難は慎重に!
 近くに高台がなく、高い建物の少ない平地では、車で避難せざるを得ない場合があります。
 閖上保育所では、地震が起これば信号が停止し、主要幹線が渋滞することから、信号のない農道などを利用した避難ルートを想定し、何度も避難訓練を行っていました。
 車で避難する場合の避難場所、避難ルートを検討しましょう。