危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

 「2014FIFAワールドカップ ブラジル大会」は、ドイツの24年ぶり4度目(1990年の旧東西ドイツ統一後では初)の優勝で幕を閉じました。日本は、残念ながら1次リーグで敗退してしまいましたが、オリンピックと並び、4年に1度の世界的なスポーツの祭典ということで、寝不足の日々が続いた方も少なくないのではないでしょうか。
 開幕前から、メディアではサッカー以外に、開催国であるブラジルの治安等を不安視する報道が数多く取りあげられていましたが、やはり被害にあわれた邦人は多かったようです。
 本稿では、今回のサッカー・ワールドカップ(W杯)での邦人の犯罪被害の一端をご紹介するとともに、海外での事例等も参考に、海外渡航時の危機管理について考えてみたいと思います。
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 まず、今回のW杯での邦人の犯罪被害についてですが、外務省によれば、日本人観戦客の犯罪被害申告は、開幕前の6月8日以降、7月14日までに計33件に上ったとのことです。日本の1次リーグ敗退で日本人観戦客の数は減ったようですが、在ブラジル日本大使館ではその後も注意を呼び掛けていたそうです。
 内訳としては、強盗6件と窃盗27件であり、刃物や銃を使った強盗も起きたようですが、目立った負傷者は出ていないとのことでした。しかし、被害が小さいなどの理由で届け出ていないケースも考えられることから、実際の被害はもっと多いとみられているようです。日本政府は、開幕後の6月16日までに8件の邦人被害があったと発表しましたが、その後4倍以上に増えたことになります。
 被害が多かったのは、日本代表が1次リーグ3試合のうち2試合を戦った北東部で、在レシフェ出張駐在官事務所によると、レシフェとナタルなどで強盗5件、窃盗8件(6月24日時点)、最大都市サンパウロの空港では、乗り継ぎの間に、置き引きやすりの被害が頻発したとのことです。7月8日にも、同じくサンパウロのパブリックビューイング(PV)会場で、男性2人が財布やカメラ、スマートフォンを盗まれる被害が発生したとのことです。
 日本人以外では、さらに深刻な被害に遭った外国人観戦客もいたようで、地元報道によれば、日本対コロンビア戦があったクイアバでは、W杯開幕日の12日、チリ人ら28人が宿泊中のホテルに7人組の拳銃強盗が押し入り、荷物や車が根こそぎ奪われたそうです。また、北東部でも外国人を狙ったホテルへの集団強盗が多発し、特に東部サルバドルでは外国人を狙った犯罪が多く、W杯開幕からの1週間で起きた強盗事件128件のうち被害者の4分の3が外国人だったようです。

 外務省の海外安全ホームページでは、「2014FIFAワールドカップ情報 在ブラジル日本大使館」という特設ページが設けられ、危険スポット情報や安全情報、観戦上の注意、現地での緊急連絡先等々、様々な情報が掲載されていましたが、その中に、「安全にW杯を楽しむための7つのポイント(必ずお読みください)」と題して、以下のような事項が掲載されていました。

【安全にW杯を楽しむための7つのポイント】
〆膿靴亮0他霾鵑鯑手し、危険を回避する。
⊂錣坊找・用心を怠らず、時間・場所・周囲の状況を考慮して行動する。
C影塙堝亜¬覺屬粒綾个蝋気─⊃裕い里覆ぞ貊蠅砲蝋圓ない。
ざ睫椶諒は身につけず、目立たない格好に心がけ、貴重品は最小限に分散所持する。
ザ盗、誘拐、窃盗、スキミングの被害が多発しているので注意する。
ε綿癲▲丱后⇔しや非正規のタクシーは使用しない。
Ю簑个膨餽海擦此言語がわからなくても落ち着いて犯人の指示に従う。

 ちなみに、「W杯観戦時における安全の手引き」というPDFがダウンロードできるようになっていたと同時に、渡航地域によっては「黄熱」の予防接種が推奨されているとして、厚生労働省のホームページも併せて掲載されていました。

 次に、参考までに、海外での事例をいくつかご紹介します。
 2001年9月11日のアメリカの同時多発テロを境に、各国の空港でのテロ対策が随分変わったと聞きます。数年前にフランスへ旅行に行った際、成田空港からエールフランスの旅客機に搭乗し、フランスのパリに到着したのですが、到着した空港では、男女とも履物を脱ぎ、検査機に通して異常がないことを確かめさせられたばかりか、着ている上着も検査機に通して検査する念の入れようでした。(日本では最新の検査機器が導入されているのかもしれませんが?)検査体制が日本の空港とはあまりにも違うことに驚いたのをよく覚えています。
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 業務でフランスとスペインに行った同僚のSさんの話によれば、羽田空港の免税店で化粧品のクリームを購入しようとしたそうですが、免税店の店員さんから、EUで国をまたいで入国する際は荷物の中に液体やクリームなどを入れるのはダメだと告げられ購入をあきらめたそうです。
 また、数人の同行者と一緒だったようなのですが、その中に海外に行くのが初めての人がおり、その人はウエストポーチを腰に巻いていたそうです。それを見たSさんは、すぐさまその人に注意したそうです。理由は簡単で、「ここに私の貴重品(財布やパスポート等々)が入っていますよ。」と教えているようなものだからです。もし強盗に襲われた場合、最初に狙われるのがこのウエストポーチだと教えると、慌てて中身を出し、ポケットに分散収納したとのことです。
 ウエストポーチは日本ではよく見かけますし、非常に便利だと思いますが、外国であまり見かけません。それは、こういった理由もあるからです。ウエストポーチには小銭程度を入れておき、仮に強盗に襲われた時には腰から外して離れた場所に投げ、強盗がそれを拾う間に逃げるというのも一つの方法かもしれませんが、いずれにせよ、「ここに貴重品がある」ということを教えるような恰好はしない方が良いことは言うまでもありません。
 ちなみに、今回のW杯での邦人の犯罪被害で言えば、日本からワールドカップ観戦のために訪れていた男性が、サンパウロ市内の繁華街で通りがかりの人に声をかけられて服が汚れていることに気付き、リュックを地面に置いて服の汚れを取っていたところ、リュックがなくなったという事例がありました。リュックの中には、試合のチケット10枚のほか、パスポートやクレジットカード、さらに現金1,000ドルなどが入っていたということですが、男性に怪我などはありませんでした。
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 また、20年前に南アフリカに行ったKさんによれば、当時の南アフリカは治安が悪かったためか(今もかもしれませんが)、現地の通訳から、外国人旅行者は宿泊したホテルから300m先の店に行くのにもタクシーに乗ることを推奨されたそうです。(当時)怖い物知らずだったKさんは、その助言をあまり気にすることなく裏通りの道を歩いていたようですが、テーブルの上に拳銃を置き、ビールを飲みながら覚せい剤を注射している現地の人を見たときは、さすがに驚いたと言っていました。
 これは極端な事例かもしれませんが、海外では銃に対して寛容な国があることを決して忘れてはいけません。日本のように、深夜に女性が比較的無事に歩くことのできる国(最近はそうとも言い切れなくなってきましたが)は少ないと言っていいでしょう。

 次回は、「海外渡航時の危機管理」に関する主要なポイント等をまとめます。