危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

※「サッカー・ワールドカップでの邦人の犯罪被害等から、海外渡航時の危機管理について考える
 (その1)
」のつづき。
 「その1」は、2014年7月22日付の記事を参照ください。



 皆さんご承知のように、近年、海外への渡航はますます身近なものになってきています。
 東京国際空港(羽田空港)では、2010年10月21日に国際線ターミナルが開業し、同31日からは、これまで国際線定期チャーター便として運航されていた便が定期便に格上げされ、その後も羽田発の海外主要都市への直行便が大幅に増便されてきています。また、地方の各空港からの直行便も逐次増えてきています。
 一方で、海外で入院が必要な病気や怪我に見舞われたり、事件や事故等の予期せぬ事態に巻き込まれたりするなどといったリスクが増大していることも事実です。病気を除き、海外において一般的に最も遭遇の恐れが高いリスクとしては(W杯の事例でも明らかなように)、犯罪被害、そして交通事故が挙げられます。その多くは、日本にいる時と同じような感覚と注意力で行動したために遭遇した例が多いようです。
 このような海外渡航時のリスクを回避するため、危機管理上最も重要なことは、
‥蝋卅阿法⇒汁曚気譴覺躓,魏麋鬚垢襪燭瓩了前の準備と対策を行っておくこと
渡航中は、「海外にいる」という大前提に立ち、常に危機意識を持つとともに、「自分の身は自分で守
 る」という安全管理と健康管理を実践すること

です。
 インターネットで検索すると、多くの大学が海外渡航時の危機管理に関するマニュアルや情報等を作成・掲載しています。
 多くの大学では、学生・教職員の海外留学・派遣を含む国際的な学習・研究体験を提供するとともに、国際交流推進の一環として、様々な海外プログラム等を展開しており、学生・教職員が海外において事故なく安全に本来の業務、研究、学業等の目的を果たせるように、これらを作成しているようです。
 私自身、これらを読んでみて非常に勉強させていただきました。これらに記載されている主要なポイントについて以下にまとめてみましたので、皆さんも是非とも参考にしてみてください(※東京大学作成の「海外渡航危機管理ガイドブック」などを参考に、それらの内容から一部を引用しています)。
 なお、ここでは「海外への渡航」の観点からまとめていますが、「日本国内」の観点でも共通する内容は多いものと考えます。

【渡航前の準備】
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 渡航先国・地域ではどのようなリスク(暴動、内乱、テロ等の緊急事態、犯罪被害、交通事故、疾病等)があるかについて、事前に情報を収集しておくとともに、それらを十分に理解しておくことが重要です。
 海外で渡航者が巻き込まれる事件の6割が財産犯罪(置き引き、スリ、ひったくり等)であり、また、若者が遭遇するリスクで多いのが交通事故のようです。これらについては、「外務省 海外安全ホームページ」等で情報を収集しておきましょう。
 また、体調不良や病気なども勘案し、事前に、渡航先周辺の医療機関等について調べておくことも大切です。渡航先の感染症情報及びワクチンの情報等については、「FORTH 厚生労働省検疫所のホームページ」等で収集しておきましょう。
 ちなみに、数年前に私がフランスに行った時は、運悪くストライキの真っただ中であり、公共交通機関のマヒはもちろん、観光名所やデパート等の営業時間の短縮など、様々な悪影響を受けました。最近では、スマホやタブレット等が普及しているとともに、SNSを通じて、いつでも・どこでも様々な情報が入手できるようになりましたので、渡航中でもこれらのツールを活用し、努めて最新の情報を入手するといった着意も必要ですね。
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健康管理
 渡航前の健康(体調)管理は、渡航先での疾病等を防ぐとともに、渡航の目的を果たすことに直結する非常な重要な要素といえることから、以下の事項に留意する必要があります。

●健康診断等の受診
 海外留学や出張など、滞在が長期にわたる場合は、渡航前に必ず健康診断を受け、自分が健康体であることを確認しましょう。
 持病がある人は、事前に主治医等に相談し、通常服用している薬の渡航先での確保等についても準備が必要です。英文の診断書や内服薬についての英文の一般名を得ておくと、海外での処方に役立つようです。また、英文での処方箋をもらっておくのも安心ですね。
 また、歯科治療は、一般的に海外傷害保険の対象外であり、海外での治療は費用がかかるとともに、技術的な問題もあるようなので、渡航前に確実に治療を済ませておきましょう。

●常備薬の準備
 渡航先によっては、気象条件(季節、気温、湿度の差)、時差、食習慣(特に水など)等が日本とは全く異なる地域もあります。また、ただでさえ慣れない場所にいくうえに、これら環境変化の影響等も相まって精神的なストレスが増大するなどにより、体調を崩す場合が少なくありません。海外では、処方箋がないと日本のように市販薬が買えない場合や、体質に合わない場合などがあるので、以下のように、風邪薬、頭痛薬などの鎮痛剤、下痢止めなどの消化薬、かゆみ止め、虫よけ等、応急薬を持参した方がよいでしょう。
 ちなみに、粉末の薬は麻薬と誤解される可能性が高いそうなので、注意が必要です。
 ・風邪薬(普段服用している自分に合ったもの)
 ・鎮痛剤(頭痛・歯痛・発熱などにも効果があるもの)
 ・消化薬(乳酸菌整腸剤等、下痢や便秘の予防に効果があるもの)
 ・外用薬(点眼薬、かゆみ止め、虫よけ、絆創膏、殺菌用消毒剤、湿布など)
 ・スポーツドリンクの粉末(軽微な下痢や嘔吐、熱中症対策)


●予防(ワクチン)接種
 予防接種には、主に「渡航者先において自分自身を感染症から守るとともに、周囲の人への二次感染を防止する場合」と「ワクチン接種済み証明書を渡航先国から要求される場合」という2つの側面があるとのことです。
 前者の場合は、事前に渡航先の感染症情報及びワクチンの情報を収集し、接種について判断する必要があります。
 いずれにしても、ワクチン等の種類によっては、複数回の接種が必要であったり、接種間隔の制限があったりするようなので、早めに(できるだけ出発3か月以上前から)確認し、接種計画をたてるようことが望ましいでしょう。
 なお、日本国内で行われている一般的な予防接種としては、破傷風、A型肝炎、狂犬病、日本脳炎、B型肝炎、ポリオ、黄熱、ジフテリア、麻疹があります。必要な予防接種等の参考情報は、「FORTH 厚生労働省検疫所のホームページ」からご覧になれます。

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 渡航前には、「海外旅行保険(海外傷害保険)」に加入しておくことが重要です。
実際、海外旅行保険に加入していなかったために、病気や怪我、盗難被害等により、多額の損害を被った旅行者は数多くいるようです。こうした予期せぬトラブルに備え、海外旅行保険には必ず加入しておいた方がよいでしょう。
 経験がある方も多いかと思いますが、旅行会社のツアー等を利用した場合は、これらへの加入を強く勧められます。旅行会社側も各保険会社と提携しているのか、安価で最低限の補償をカバーしているものから高額なものまで、バリエーションに富んだプランを紹介してくれます。保険会社によっては、海外旅行保険に加入すれば24時間日本語でトラブルに対する相談や現地での病院の紹介、アドバイスなど、様々なサポートが受けられるものもあるようです。「せっかくの海外旅行なんだから、お土産をいっぱい買いたい」「美味しいものたくさん食べたい」など、節約の観点からつい保険のことをないがしろにしがちですが、渡航先での危機管理という観点でいえば、金銭面ではなく精神面での安心を買っておく(補償しておく)ことの方が大切かもしれませんね。
 なお、大学等の留学プログラム等により海外へ行く場合は、その大学等が指定する海外旅行保険への加入が義務付けられている場合がほとんどのようです。

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 渡航先で危機事態に直面した場合に即座に然るべき対応をとれるよう、「緊急連絡先リスト」を作成しておくことが望ましいでしょう。
 緊急連絡先リストには、以下のような事項について名前及び必要事項等を記載し、常に携行しましょう。仮に意識不明など、自分で連絡できない状況に置かれた場合の助けになります。
 ●現地での連絡先
  渡航先の旅行会社(現地支社)、ツアー責任者、渡航先機関の関係者、滞在ホテル、
  管轄の日本大使館や領事館、現地在外公館、現地の警察や病院(救急車など)
 ●日本での連絡先
  家族、保護者、関係者(同行者、会社、職場の上司等)、保険会社、クレジットカード会社、
  航空会社、旅行会社
 ●その他
  パスポート番号、発行年月日等の控

【渡航中の心構えと対応】
 渡航中(海外)では、「治安や常識が日本とは異なる環境にいる」という大前提に立ち、常に危機意識を持つとともに、「自分の身は自分で守る」という安全管理と健康管理を実践することが重要です。

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 ●現地のルール(法律等)を守るとともに、文化や風習を理解・尊重する(異文化への適応)
 ●危険な場所には決して近づかず、夜間の外出も努めて控える
 ●必要以上に多額の現金及び貴重品は持ち歩かない
 ●現地では見ず知らずの人を安易に信用しない
 ●危険生物や薬物等には絶対に手を出さない


危機事態に直面した場合の対応
 ●現地の警察や病院、あるいは受入先機関の関係者、滞在ホテルなどに助けを求める
  (海外で病気や怪我をした時は、日本にいる時と同じ判断基準で病院にかかること)
 ●渡航先の旅行会社(現地支社)や日本の旅行会社、ツアーの責任者、航空会社など事態を報告する
 ●日本にいる家族や保護者、関係者に連絡する
 ●保険会社やクレジットカード会社に事態を報告するとともに、情報収集と必要な措置を行う
 ●必要に応じて、管轄の日本大使館や領事館、現地在外公館にも連絡する
 ※「緊急連絡先リスト」を携行


 まもなくお盆ということもあり、多くの社会人にとっては、待ちに待った(短い)夏休みを迎える時期になります。
 この休みに(特に)海外などに行くことを計画されている方も多いかと思いますが、上記の事項を常に念頭において行動し、個人はもちろん、ご家族ともども安全・無事に楽しみたいものですね。