危機管理業務部 主任研究員
 和知 喜久雄

※「知っていれば困らない国民保護法(その1)」のつづき。
 「その1」は、2014年4月21日付の記事を参照ください。



 「国民保護法の対象となる事件が起きたら、皆さんはどうしますか。」例えば、1998(平成10)年8月31日に起きた北朝鮮のミサイル発射事案の時は、どうしたでしょうか。思い出してみてください。
 一般論ですが、欧米人は、自分の所に落ちてくると考え、すぐに行動を起こすそうです。日本人の場合はどうでしょうか。日本人は、ミサイルが落ちてくるのは怖いけれど、絶対に自分の所には落ちてきてほしくない、自分の所には落ちてこないと思い、避難をしない場合が多いと言われております。また、もしもミサイルが発射されても、危険なことは国が何とかしてくれるだろうと思いこんでいる人も多かったのではないでしょうか。
 このように、危険な事が予想されている場合、どちらの対応が望ましいでしょうか。

 2014(平成26)年4月16日に起きた韓国の旅客船(セウォル号)沈没事故は、今年のことなので、皆さんまだ鮮明に記憶に残っていることかと思います。乗員・乗客476名のうち、生存者172名(救出後、自殺した教諭1名含む。)。死者293名、行方不明者11名(7月28日現在)という、悲惨な大事故でした。
 この事故は現在も事故原因を解明中ですが、船体が傾きだしてから、脱出を促すアナウンスがあるまでの約1時間22分の間に生死が分かれる結果となりました。事故直後、船長はじめ乗務員ほぼ全員が脱出してしまい、乗客に対して避難誘導も完全でなかったことは報道でもご記憶のことと思います。
 事故直後の経過をたどってみましょう。事故は、8時48分に発生しました。
【08時48分】
セウォル号が右に45度旋回し、船体が傾きはじめる。
【08時52分】
異常を感じた少年が携帯電話で消防に通報
【08時54分】
消防への通報が海洋警察に転送
【08時55分】
セウォル号が遭難信号を済州島に発信
【08時55分】
済州島の海上交通管制センターが乗客に救命胴衣を着けさせ、避難の準備に入るように促す。
【09時23分】
交通管制センターから救命胴衣を着用するようにアナウンスの指示。セウォル号は「できない」と答える。
【09時24分】
交通管制センターが船長に対して、乗客に対する脱出の最終決断を促す。しかし、船長の決断は下されなかった。
【09時30分】
海洋警察の警備艇が到着。この時、セウォル号は左舷側に45度傾く。船内に海洋警察の到着と船内に待機のアナウンスあり。
【09時33分】
交通管制センターから脱出した人が使えるように救命胴衣や救命ボートの投下指示があったが、投下せず。
旅客船のイメージ3(救命ボート)
< 救命ボートのイメージ >

【09時45分】
セウォル号は左舷側に62度傾く。
【10時10分】
「沈没が迫っている。乗客は飛び降りろ。」と船内指示あり。これは案内係の後の義死者認定女性によるもの。この女性以外の乗務員は皆避難していた。
【10時15分】
「待てだって、待て」というアナウンスが最後
【10時17分】
セウォル号は左舷側に108.1度傾く。
「救命胴衣を着用して下さい。」というアナウンスは自動船内放送。
船の中では「動かないで下さい。」と繰り返しアナウンスがあるだけだったようです。

 壇園(ダンウォン)高校の高校生・教員325名が乗船しており、このうち亡くなったほとんどの高校生・教諭は、アナウンスの指示や大人からの指示に従ったため、脱出の機会を失ったともいわれております。

 これらの経過から疑問に思うことは、
‐萍外は乗客に対して、なぜ事故の状況を知らせるアナウンスをしなかったのか。
避難時の原則である避難場所への避難指示を出さず、逆に「動かないで下さい」と避難のチャンスを封
 じたのか。
Aヂ里傾きはじめて45度に傾くまでの約40分間、多くの人達が自身の判断に基づき行動を起こさな
 かったのか。
ず念の状況が起きるまで事故の状況を確認しようとしなかったのか。
ッ録未起きた時、玄関を開けるとか、火元を消すように、なぜ避難の対処をしなかったのか。

 報道やインターネットの資料を読む程度では不明なことばかりで、今後の真相解明を待たなければこの疑問は解決しませんが、まさにこのように生きるか死ぬかの危機に直面したら皆さんはどうしますか。
‘本の場合、同じような事故が発生した際は、乗務員は、すぐに何が起こったのか、今後どうするのか
 というアナウンスや指示を出すので、それに従えばいい。
◆崙阿ないで下さい。」という指示があっても、いつまでも事故情報や納得のいく次の指示がなけれ
 ば、自分で判断して行動する。
周りの人の行動に合わせる。
せ惻通り待って行動する。
デ柴世里い指示がなければ、乗務員に問いただす。
乗務員がいないことがわかれば、とにかく避難することを考え行動する。
Ъりの人と協力して避難する。

 思いつくことを列挙してみましたが、いろいろな行動や考えがあると思います。このような事故は2度と起こらない(起こしてはならない)とは思いますが、いつ、どこにいても、常にもしものことが起きた時の対策をイメージアップし、速やかな行動がとれるようにイメージトレーニングをしておくことが大切ではないでしょうか。

 国民保護法では、皆さんの安全を守るため、武力攻撃やテロなどが迫り、または発生した地域には、市町村から原則として防災行政無線のサイレンを使用して皆さんに注意を呼びかけることとしております。そして、テレビ、ラジオなどの放送や消防の広報車両などを通して、皆さんに、どのようなことが、どこで発生あるいは発生するおそれがあるのか、どのような行動をとってほしいのかといった情報の内容をお伝えすることになっています。また、住民の皆さんの避難が必要な地域には、同様な方法で避難を呼びかけます。
 行政機関からの指示としては、屋内の避難、近隣の避難所施設への避難、市町村や都道府県の区域を越えた遠方への避難などを考えております。皆さんの安全を守るため、状況に応じて適切な指示が出されますので、行政機関からの避難指示が出された場合は、その指示に従って落ち着いて行動するようにしてください。国民保護法が成立して10年が経ち、全国の自治体でも国民の皆さんの安全を守るために真剣に努力をしていますので、警報や避難誘導の指示には是非従ってほしいと思います。

 今回は、原因究明や今後の対策を検討中のセウォル号の沈没事故を例に挙げ、もしもの時の情報収集や避難行動の判断について一緒に考えてみました。
 最後になりましたが、今回の事故でお亡くなりになった方に、心からご冥福をお祈り申し上げます。

 次回も、国民保護法を紐解き、いざという時に困らない内容についてご紹介したいと思います。