危機管理業務部 特命研究員
 岩崎 健次

 最近の気候変動の脅威は、我が国において、大型・急襲的な災害発生となって現れています。
 平成26(2014)年8月20日午前3時20分から40分にかけて、広島市安佐北区可部、安佐南区八木・山本・緑井などで、同時多発的かつ大規模で発生した土石流災害(=平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害)のニュースに接して最初に感じたことは、「また起きてしまった!」という思いでした。
土石流イメージ1
< 土石流災害のイメージ >

 記憶に新しい土石流災害と言えば、平成25(2013)年6月に発生した東京都大島町(伊豆大島)での土石流災害です。その時は、1時間に100mmを超す猛烈な雨が数時間にわたって降り続き、溶岩の上に堆積していた火山灰が流れ出たことにより、39名の死者・行方不明者が出ています。
 今回の広島市での災害も、火山灰の一種である「まさ土」が流れ出たものであり、広島市災害対策本部のまとめでは、8月22日時点で少なくとも土砂崩れが170箇所、道路や橋梁への被害が290箇所確認されています。また、国土地理院が8月22日までに航空写真を解析した結果、安佐南区から安佐北区にかけての約50箇所で土砂流出が発生したとみられており、結果として、死者・行方不明者は、伊豆大島での土石流災害の倍近くに達しています。
 行方不明者の捜索は約1か月間に及び、両区の被災地域での死者は74人、重軽傷者は44人に上っています(広島県災害対策本部、9月19日16時発表)。この死者74人という数は、国土交通省の発表によると、土砂災害による人的被害としては過去30年間の日本で最多であり、1983年7月に島根県西部で87人が死亡・行方不明となった豪雨(昭和58年7月豪雨)による土砂災害以来の大きな人的被害となりました。また広島県全体では、両区を主として、133軒が全壊したのをはじめ、330棟の家屋が損壊し、4,100棟以上が浸水被害を受けました(広島県災害対策本部、9月19日16時発表)。
 伊豆大島で発生した土石流は台風26号に起因するものであったのに対し、広島市で発生した土石流は、夏の独特の気圧配置(積乱雲が連続かつ集中して発生)による豪雨(短時間で局地的な大雨:3時間で187mm)に起因したものでした。
 両者に共通するのは、短時間に集中した雨量が火山灰を主体とした表層を崩壊させ、大量の泥流と流木・流岩を発生させたことです。しかも、ほとんどの住民が眠りについていたであろう深夜に雨量が最大となって土石流が発生、その土石流が住宅地へ流れ込んだことで被害が拡大したことが挙げられます。また、深夜の「避難勧告」、「避難指示」が徹底できなかったことも被害を拡大させてしまった大きな要員の一つと言えるでしょう。

【広島土石流災害発生の背景】
 被害地域の1つは、かつてその一帯が「蛇落地悪谷(じゃらくじあしだに)」と呼ばれており、現地の住民が「蛇が降るような水害が多かった事から、悪谷と呼ばれていたそうだ」と話していたことから明らかなように、東日本大震災の教訓を再考するまでもなく、先人の言い伝えには静かに耳を傾け、自らを反省することが重要です。
 今回の災害で「土砂災害防止法」の土砂警戒区域や特別警戒区域の指定の問題が改めてクローズアップされています。我が国は、近年、河川から広がる扇状地において、経済優先の住宅地開発により生活圏の拡大が余儀なくされ、これら住宅エリアが土砂災害のリスクを抱えたまま今日に至り、最近の新たな集中豪雨の形態がこれを顕在化したものと考えることができます。
 「国内に普通にあるこのような生活圏に住む人々は、どのように自分の身を守ればいいのか」について自問自答していた私が注目したのは、日本古来の武道の心得でした。

【武道の心得】
 自らの身を守るため、自分の中の「センサー」を最大限に働かせるとともに、常に「危機観」を養う

 今回の災害で、避難勧告、避難指示が出る前に、危険地域に居住していた人々は、あのような状況下で何も感じなかったのでしょうか?
 特に土砂災害は、「前兆現象」がある災害であることが広く知られています。土砂災害でよく聞く前兆現象を以下に挙げてみました。これは、広島災害でも実際に住民がインタビューに答えていた内容も含まれています。

  岷の降り方」:猛烈な雨は、辺りを水しぶきで白く見せ、あとは視界なし
         「普通」と違うこと:異常な雰囲気
 ◆崔呂垢戮蝓廖Щ格△両規模な崩落や亀裂
 「崖崩れ」:崖からの音、湧水の発生、湧水の停止、崖上の倒木発生
 ぁ崚收侘」:川の濁り、山鳴り、地鳴り、臭い、降雨中の河川水位の急激な降下


 自らの身を守るために自分の中にある「センサー」を最大限に働かせ、異常を敏感に感じ取ることによって、リスクを回避できる確率はかなり高まるものと考えられることから、これらの前兆現象に敏感に反応する意識(知識)や精神状態を育成しておくことが重要だと思います。
 夜間、物音で目を覚ましたり、近くの気配に反応することは、昔の武士にとっては日常的な事柄であったようですが、現代においては、修行僧でもない限り、そこまで気が付いたり、反応することは困難なことかもしれません。
 しかし、自然災害等が多発する傾向が続いている昨今、様々なリスクに対し、その異常を敏感に感じ、予測し、対応していくことは、「生き残る」ために非常に重要なことであると思います。このような精神を育成する王道はありませんが、以下のように、あらかじめ出来ることは何でもやっておくことが大切であり、常に「危機感」を養うための取り組みを続けていくことによってはじめて、人の五感に「異常」を届きやすくすることができるのではないでしょうか。

 )漂劼坊犬訐験莨紊離螢好を考えてみる、または想像してみる。
 △修里燭瓩諒策を書いてみる。
 災害のイメージをつくる(例えば、地震の場合、起震車などで体感のイメージをつくる。
 ねЭ佑箍搬押地域の人達などと危機管理について話し合う、または災害体験者の話をよく聞く。