危機管理業務部 主任研究員
 松田 拓也

 前回の記事「初めての原子力防災」では、原子力防災は情報提供が上手く出来るかが重要なポイントであるということを書きました。
 今回は、情報提供を行う上での地域における課題の一例をご紹介したいと思います。

 昨年、ある市でグループ討議を中心とした原子力防災訓練を実施しました。
 討議の前提条件としては、原子力発電所で事故があり、国や県を通じて市から避難指示が伝達され、市は防災行政無線や広報車、防災メールなどの手段や各地区の長への電話連絡などを行うというものです。
 これらを受け、各地区すべての住民に確実・迅速に情報伝達を行うために、地域においてどのような課題があるのかを検討していきました。
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< 原子力防災訓練(グループ討議)の様子 >

 討議の結果、主に以下のような課題が挙げられました。
 ]⇒輒屬寮鞍・活用が出来ていない
  ・連絡網が無いもしくは古い。
  ・連絡網があっても、個人情報保護のため、各世帯に配布できない。
  ・固定電話だけでは連絡がつかない。
 広報車での広報要領の不備
  ・道が狭く、広報車が入っていけない。
  ・雨天時・夜間は気付かない。
  ・耳の悪い方には伝わらない。
 9報設備の不足
  ・防災行政無線及び戸別受信機が無い。
  ・ラジオ・携帯電話の電波が入らない地域がある。
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  ・メールの操作ができない。
  ・耳が遠い者には電話で伝えることができない。
  ・日中は若年層が仕事で不在にしており、高齢者のみでの対応になる。


 原子力発電所の周辺市町村はいわゆる田舎が多いため、上記のような課題は、原子力防災の情報伝達において普遍的なものであると考えます。
 行政では、有事に正確かつ迅速に情報伝達を行えるよう、日々体制を整備し、伝達要領の習熟に努めていますが、すべての住民に確実に伝わったかどうかを確認することは不可能に近いと思います。したがって、迅速かつ確実に情報を伝達するためには、地域住民の協力が不可欠です。
 これらの課題は一朝一夕で解決できるものではないため、まず行政などの公的機関でしなければならないこと、地域住民が自らしなければならないことを明確にし、それぞれが協力して取り組んでいくことが重要です。これがまさに防災における自助・共助・公助の考え方であり、どれかが欠けても効果的な取り組みになることはありません。
 それでは、上記の課題を解決していくために具体的に何をしたよいのかということですが、平素から以下のような取り組みを行っていくべきだと考えます。
 々埓側
  ・防災行政無線及び戸別受信機など広報資機材の整備
  ・防災メール等の利用の推進
  ・地域の取り組みへの支援
 ⊇嗣餌
  ・連絡網の整備(地域コミュニティの強化)
  ・高齢者への戸別訪問など情報伝達要領の確立
  ・防災に関する協力意識の醸成


 特に住民側においては、地域コミュニティにおける交流が強化されていけば、自然と協力意識が高まり、地域における防災力の強化につながるものと考えます。
 このため、地域の祭りなどのイベントや地域の防災訓練などを通じて取り組みをアピールしていくことが重要であり、行政側はそれを支援していくことが重要です。
 また、住民側から行政へ働きかける手段としては、以前ご紹介した「地区防災計画」を作成し、地域防災計画に組み込むことで予算化を図る方法などもあります。
 いずれにせよ、原子力防災の情報伝達において重要なことは、行政と住民が協力し、適切な情報連絡方法を確立するということです。

 さて、次に問題となるのが、いかに正確に伝達するかということです。
 前述の訓練では、伝達内容を聞き取れない高齢者への対応や、伝達内容が多い場合への対応として、行政側から文書で通知してほしいという要望が出されていました。しかし、この方法では必ずしも迅速性は担保できません。
 また、サイレンを使用してはどうかという意見も出されましたが、これでは正確な情報が伝えられません。

 次回は、伝達すべき内容と伝達手段の特徴についてご紹介します。