危機管理業務部 研究員
 山之内 正和

※「災害医療について考える(その2)」のつづき。
 「その2」は、2015年4月20日付の記事を参照ください。



 今回は、「救急医療と災害医療の違い」について記載したいと思います。

 救急医療の目的は、一人の傷病者に対して最大限の医師、看護師などの人的医療資源及び医療施設、医療機器、医療材料、医薬品などの物的医療資源を投入して救命と後遺症軽減を達成することです。
 傷病者に対し、現場における最善の処置を行いつつ、迅速に最適な医療機関に搬送され、可能な限り傷病者本人や家族の要望に沿って医療行為が行われます。
 一方で、災害医療の目的は、最大多数の傷病者に対して救命と後遺症軽減を達成することです。
 対応能力が限られた状況の中では、処置、搬送、医療機関の選定に優先順位が存在し、皆さんご存知のように、この優先順位をつける行為をトリアージと言います。多数発生した傷病者はトリアージによって区分され、より救命治療効果があると考えられる傷病者に、処置、搬送、医療機関の選定等の資源が優先して投入されます。このため、軽傷の傷病者や救命困難と判断された傷病者は、救急医療では受けられた診療が災害医療では受けられない場合があります。

 救急医療と災害医療の区別は、発生した傷病者数、傷病者の重症度及び傷病者の特殊性が地域医療の対応能力を超えるか否かで判断されます。同じ規模の事故でも、地方都市では災害であり、対応能力の高い大都市では災害ではないこともあり得ます。
 また、NBCなど特殊な事故(災害)により傷病者が発生した場合は、傷病者が少ない場合でも地域の対応能力を超えていれば災害の状態であると言えます。
 事故(災害)に対する対応能力は、発生する時間帯や季節、場所や原因、傷病者の性質により変化します。

 事故(災害)の発生現場における救急隊員の対応は、傷病者が少数で地域の対応能力の範囲内である場合には、現場において適切な処置(頸椎保護、気道確保、酸素投与、補助換気、圧迫止血)を行い、根本治療を行うため適切な医療機関に迅速に搬送します。
 多数の傷病者が発生している事案の場合には、先着した救急隊は傷病者の処置や搬送にとりかかるのではなく、災害の全体像の把握と災害応援体制を立ち上げるため的確に情報を発信して迅速に応援を求め、後から到着する救急隊が円滑に活動できるよう準備を行います。
 災害には、大規模な地震災害から化学災害など特殊な対応が必要となる災害まで様々あり、その被害による傷病者の状態も様々な症状で多岐にわたることとなります。
 このため、救急隊員は、平素から知識と技術を練磨することにより、事故(災害)発生時に適切な判断を行い、可能な限り傷病者の救命と後遺症軽減のため最善を尽くしているのです。
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 本稿でも、締めくくりとして、災害医療に係る主要な用語の意味等について補足しておきます。

※「トリアージ」とは
.肇螢◆璽犬箸蓮被災地において最大多数の傷病者に最善の医療を実施するため、傷病の緊急度と重症
 度により治療優先度を決めるものであり、限られた人的・物的医療資源を有効に活用するための重要な
 行為です。
◆嵜椋匯における医療対策に関する提言(阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関す
 る検討会、平成7年5月29日)」においては、(1)阪神・淡路大震災では一部トリアージが未実施
 のため、限られた医療資源が有効に活用されなかったこと、(2)トリアージ技術等に関し医療関係職
 種の訓練・研修を実施する必要があること、(3)災害時のトリアージの意義等に関して国民に対する
 普及啓発活動を行う必要があること、などが提言されています。
「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する検討会報告書(平成8年4月)」にお
 いては、トリアージの際に用いられる識別票(トリアージ・タッグ)の標準化について提言されていま
 す。

※「NBC災害」とは
 N(放射線)、B(生物)、C(化学)を原因とする災害のことで、発生すると、その原因が事故であれテロであれ、社会に極めて重大な被害を及ぼします。

※「補助換気」とは
 浅呼吸や呼吸を停止している場合に、呼吸の安定化のために空気や酸素を投与するなど、呼吸を補助する処置です。

※「根本療法」とは
 症状や疾患の真の原因となっているものを直したり取り除いたりする治療法です。