危機管理業務部 主任研究員
 清水 信雄

※「先輩の教え(その2)「大切な地図と危機管理」」のつづき。
 「その2」は、2015年3月30日付の記事を参照ください。



 今回も、前回に引き続き「先輩の教え(その3)「大切な地図と危機管理」と題して、地図の活用に関するお話をご紹介します。

 私が自衛隊の若手幹部として勤務していた頃、「師団」という大きな部隊の司令部で、所属する部隊の訓練を計画する仕事をしていました。また、定期的に、その実力を確認するために行われる「訓練検閲」という業務を担当していました。
 訓練検閲の本番は、富士山の裾野にある広大な演習場等で行われるわけですが、それを実行するためには、事前に膨大な種類や数の計画や命令・指示を作成しておかなければなりません。当時は、今のようにパソコンやプロジェクターがあまり普及しておらず、手書きやワープロで文書を作成したり、様々な会議では、その文書を透明のビニール用紙に焼いてOHP化したうえでスクリーンに投影するなどしていました。
 会議には地図を積極的に使用しますが、その時に大活躍するのが「オーバーレイ」です。硬質のビニール用紙等の上に報告や説明に必要な情報を簡潔に書き込み、聞く側が理解しやいすいように地図上に展開していきます。
 ところで、皆さんは、普段の業務あるいは防災訓練等でオーバーレイを活用されていますか?

 「えっ! オーバーレイって、地図を保護するために使うビニールじゃないの?」
 「電子レンジでチンする時に使うサランラップのようなもの?」
 「うちの職場では、硬質ビニールとか、オーバーレイって、見たことない!」
 「使ったことあるけど、計画を作る時、考えるために使う下書き的なものでしょ?」


 オーバーレイとは、ビニール・セロファン・透明紙等の素材の物を、地図や要図に重ね、これにマジックペン等を用いて、必要な情報を同一の縮尺で記入したもののことを言います。
 危機管理においては、地図が本来保有する情報を生かしつつ、様々な情報を重ねることによって、今まで見えなかった情報が見えてくる(見える化、あるいは視覚化する)ため、迅速な情報の共有化が可能になるとともに、それを総合化することにより、状況判断や決心、それに基づく対応行動に繋げていくことが可能になるという大きなメリットがあります。

 ここで、もう少し、当時の私の話を続けます。
 訓練検閲の準備は大詰めを迎え、私の仕事も超忙しくなってきて、机の上は書類が山積み!
 私は、作戦室と呼ばれる会議室に展開した大きな地図の上にうつ伏せになりながら、訓練に必要となるオーバーレイを何十枚も作成していました。手は、黒・青・赤・緑等のマジックインクで大変カラフルになっています。と、そこに上司がお見えになりました。

上司
「お疲れさん。大変だな…何十枚も!」


「お疲れ様です。大変ですけど、なんとか、なりそうです…。」


 普通の会話をしている最中、その上司は、何十枚も重ねてあるオーバーレイを見ながら、私にこんなアドバイスをしてくれました。

上司
「何十枚もオーバーレイを作るのは大変なことだが、一枚ずつ、丁寧に、気持ちを込めて作れ!
 絶対に、記入している線や点が、基準となる地図や要図から、1ミリでもズレてはならない。
 全く同じ物を作れ!」


「はい(…わかっていますが、こう何十枚もあれば、数枚は…)。」

上司
「なぜだかわかるか?」


「…。」

上司
「お前が、今、作っているオーバーレイの縮尺は、どのぐらいだ?」


「え〜と、25,000分の1です。」

上司
「では、地図・オーバーレイ上の1cmは、現地でいくらか?」


「ちょっと待って下さい。2.5万の地図は、地図上の4cmが実際の1kmだから、
 地図・オーバーレイ上の1cmは、現地で250mです。」

上司
「お前のペン先が、ちょっと振れて、書いている線が1mmズレたとしよう。
 お前が書いたオーバーレイを信じて行動した部隊・隊員は、25mズレた所で行動することになる。
 昼間で、危険が迫っていない場所では、何とかなるかもしれない。
 だが、夜間や悪天候、身の危険が迫っているような場所では命取りになるかもしれないんだ。
 1cmずれていたら250mのズレ! これじゃ、全く違う場所に等しい!
 いいか! 現地で行動する部隊・隊員の身になって、正確なオーバーレイを作成せよ!」


 実際、このやりとりは、何十年か前のことですが、いまだに忘れることなく強烈な思い出として残っており、今の仕事に生かされているわけですから、この記事の内容よりも、上司の指導は相当厳しいものであったことは言うまでもありません。

 各種災害への備えの中でも極めて重要な位置付けにあるのが「図上訓練・図上演習」であることは皆さんご承知の通りですが、その中で、地図の有効活用と同様に、オーバーレイを作成し地図の上に重ね合わせることよって、重要な情報が獲得できるということを是非知っていただきたいです。
 しかしながら、初めから大きな地図の上に、これまた大きく切った硬質ビニールを広げて、オーバーレイを作成するのは、ちょっと難しいかもしれません。
 なので、初めのうちは、ご自分の机の上で広げられるようなA3版、A4版のオーバーレイを作る練習からはじめてみては如何でしょうか?自分の机の中にあるマジックペンを使って軽易に作成できます。
 そして、出来れば、周りにいるかもしれないプチ達人を探して、作り方を教わってみてください。きっと、裏ワザがありますよ(例えば、重ね合わせるオーバーレイがマジックインクで張り付いてしまわないよう、シッカロールで軽く撫ぜるとか…)。

 確かに、パソコンの画面上で様々な資料を見比べても、同じような効果があるような気もしますが、一度で良いので、オーバーレイを作り、地図に何枚か重ね合わせてみてください。きっと、その価値・使い易さに気が付かれるものと思います。

【 今回の「先輩の教え」 】
 オーバーレイを重ねてみると、今まで見えなかった情報が見えてくる!
 また、オーバーレイを作る時は、現地で活動する人々の身になり、正確なオーバーレイを作成せよ!

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 次回も、地図に関するお話の続きをご紹介いたします。