危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

 災害や防災・危機管理に関連した仕事に従事されている方の中には、吉村昭氏の「三陸海岸大津波」という本を読まれたことがある方も多いかと思います。この本は45年前の1970年に出版され、東日本大震災の後に再び関心が高まり評判になったので、その時初めて手にされた方も多いのではないでしょうか。東日本大震災の後には、このような記録(教訓)があったにも拘わらず、なぜそれが生かされなかったのかと話題になったものです。
 今年(2015年)は、阪神・淡路大震災(1995年)から20年の節目であり、9月1日の防災の日の前後には、メディア等で「阪神・淡路大震災の教訓」が数多く取り上げられていました。
 災害に限らず、過去の経験や言い伝えに学ぶことは大変重要でとても意味があることですが、それは簡単なことではありません。では、なぜそれができないのでしょうか?
 少し考えたくらいでは明確な答えは出ませんが、やはり心のどこかで「他人事」なのだと思います。それは、「空間的に別の場所の出来事」「時間的に違う時代での出来事」「(空間的・時間的な条件も加味したうえで)心理的に自分には起こらない(関係ない)出来事」であり、「日々の事でも忙しいのに、いつ起こるか分からないことを考える暇はない」、「考えても仕方がない、だから考えない」という事なのではないかと思うのです。

 反対に、嫌でも印象に残り、忘れられない出来事(経験)もあります。
 阪神・淡路大震災時に大阪で被災された方から、こんな話を聞いたことがあります。それは、「地震直後に停電したため石油ファンヒーターが使えなかった。倉庫に石油ストーブがあったが、電動シャッターが開かず、結局使えなかった。今でも電気がないと使えない物は信用しない。」、「駅のトイレで手を洗う際、手をかざすと水が出る機械があるが、停電になれば使えない。なぜこんな物を付けるのか」といったものです。やはり、自分自身で体験し、かつ苦労したことは忘れようとしてもなかなか忘れないものなのだと思いました。

 皆さん自身、または皆さんが住んでいる地域ではどうでしょうか?
 地域で、あるいはお子さんが通う学校では、年に何回避難訓練や防災訓練を実施しているか把握されていますか? その避難訓練、あるいは地域の防災訓練に参加されたことがありますか? そこで得た教訓(経験)は何か自分の役に立っていますか? そして、次の訓練等に反映されていますか?
 また、職場(会社等)で訓練はしていますか? いざ大規模地震等が発生し、帰宅が困難になった時などにどのように行動すれば良いか理解していますか?あるいは、何かマニュアルのようなものは作成されているでしょうか? 職場のロッカー等に非常持出袋などは入っていますか?(ちなみに、ハイヒール等では長時間・長距離を歩くことは困難です。)
シェイクアウト訓練
< 某自治体で実施された一斉防災行動(シェイクアウト)訓練の様子 >

 このように、いざという時に、自分自身が、あるいは地域や会社等がどのような対応を執るべきかを理解(認識)しているとともに、それに類する経験を積んでおくこと(経験値の蓄積)は大変重要です。これを得る最も有効な手段は、やはり訓練や研修等を実施する、あるいは参加してみることです。「訓練で出来ないことは本番でも出来ない」とよく言われますが、一度訓練等に参加してみると、大切なことを理解できるとともに、新たな気付きや教訓等を得ることが出来ることと思います。
 弊社では、それら各種防災訓練や研修等の企画・運営のお手伝いをさせていただいています。一般的には、そのような防災訓練や研修を体験できる機会はまだまだ少ないと言わざるを得ません。しかしながら、そんな少ない機会、けれども大変貴重な機会を最大限生かしてもらうとともに、実のある効果的かつ実践的な経験をしていただけるよう、弊社としても今後もより一層の相違工夫を続けていきたいと思っております。