代表取締役社長
山本 忠雄

※「「平成28年熊本地震」現地調査レポート〜被災地で「備え」について考えたこと〜(その10)
 のつづき。「その10」は、2016年10月24日付の記事を参照ください。



 平成28年4月27日(水) 
 南阿蘇〜福岡空港〜東京 
 この日も宿舎の朝食会場には、総務省消防庁や自治体の応援職員の方々が沢山いて混雑していた。
 この方々の支援期間は5〜7日だと思われるが、慣れない災害対応の業務を、土地観のない所で遂行しなくてはならないということは大変な苦労であろう。それでもこの方々は被災地の人達のために少しでも役に立ちたいという思いから精一杯の仕事をしているのであろう。そして、この被災地での体験が、地元あるいは自分達の組織での防災に役に立つであろうということも考えながら。それ故に、皆精気に溢れた顔をしているのだろう。

 この日も空は相変わらずどんよりと曇り、山並みは霧で霞んでいた。24日以来通い慣れたグリーンロード南阿蘇を熊本空港方向に走り、菊陽町から植木ICに入り、九州自動車道を通って、昼頃には福岡空港に到着した。途中、自衛隊、警察、消防の他、色々な機関や事業所の災害派遣車両を見かけ、すれ違った。植木IC付近では、福岡方面から来て、降りようとする車が長い行列を作っていた。
38P
 熊本城の修復が完了するまでに要する期間は、10年とも20年とも言われている。熊本地方の復旧・復興についても、あれだけの家屋や公共施設が壊れ、交通網が寸断されていては、非常に長い時間と莫大な資金、膨大な労力を要することであろう。そしてまた、被災した人達のこれからの生活再建もどうなるのであろうか。自分が被災者の立場になったことに置き換え、そんな心配をしながら東京に戻ってきた。


 熊本地震現地調査のまとめ 
 冒頭に記載したように、この熊本地震は、
 ‖翩等の風水害常襲地域での直下型大地震であること
 △海譴泙任領磴鯤い掘∩或未繁椰未大きな規模で連続して発生したこと
 M梢未長期間、頻繁に発生していること

に加え、
 と鏈卉楼茲鯔宿雨が連続して襲い、浸水・土砂崩れ等の二次災害を誘発していること
など、これまでとは違った容貌(かお)で我々に対応を迫っている。

 今回の4日間にわたる現地調査で確認された被災地熊本の状況は、
 …舎の損壊等による行政機能のマヒ
 ∩枋蠅鯆兇┐詒鯑饉埒堯避難所の損壊、屋外避難者数
 5澑臺資供給、応急危険度判定、被害調査、仮設住宅等の建設等、被災者救援・生活再建対策の遅れ

など、行政の防災体制整備の不十分さとそれに起因する災害応急対策実行の不手際、さらには、地域住民の行政依存の体質である。
 言い換えれば、これまで台風などの風水害への備えを専らとしてきたと思われる熊本県や県内の市町村は、まさに備えの虚を衝かれた形になり、災害対策本部の開設、初動対応、避難所の開設・運営、救援物資の受入れ・配分などの、各種災害応急対策が円滑・適切になされていないということが盛んに報道されていたが、そのことを現地で確認させられたということである。

 平成25年(2013年)1月14日の読売新聞朝刊は、「九州のM7級活断層、従来の8か所から倍増」との見出しで、政府の地震調査委員会が進める全国の活断層の再評価で、九州地域ではマグニチュード(M)7以上の大地震を起こす可能性がある活断層が従来の8箇所から16箇所に増え、熊本県や大分県を含む中部地域においては、M6.8以上の地震が30年以内に起きる確率が20%程度になることが判ったと報じていた。まさに今回の大地震を起こした布田川断層帯・日奈久断層帯と別府〜万年山断層帯も対象になっていたのである。これを受けて、熊本県や市町村は備えを強化してきたのであろうか?少しの時間覗き見ただけであるが、県庁や市町災害対策本部の様子や避難所の運営体制など、さらには報道されている状況から察するに、防災の重点は従来からの風水害対応で、広域甚大な被害が発生し、行政も地域住民も被災した状態で総力での対応が必要となる地震の備えなどは殆どなされていなかったのではないかと思われる。予告はあったし、時間もあったのである。「まさか、ここで、こんな大きな地震が発生するとは思わなかった」という「想定外」を、決して備えと対応の拙さの言い訳、免罪符にしてはならないと考える。

 朝日新聞デジタルは、平成28年4月18日には「おにぎりに1時間並んだ 救援物資、避難所に届かず」という見出しで、国や他県から送った救援物資が熊本県から市町村に届けられていないことを報じ、さらに、4月28日には、「益城 町にマニュアルなし、統制とれず NPOの助言で体制作りへ」という見出しで、避難所の開設・運営の体制作りができていなかったことを報じていた。

 平成28年5月5日の読売新聞朝刊は、「早く仮設住宅を」との見出しで、今回の熊本地震での応急仮設住宅の着工が遅れていることを指摘した。熊本県で仮設住宅の建設が始まったのは、4月14日の前震発生から15日後の4月29日のことである。過去の大地震において仮設住宅の建設に着手したのは、阪神・淡路大震災が地震発生から3日後、新潟県中越地震が4日後、東日本大震災が8日後であったという。私としては東日本大震災の時も「遅い」と感じたものであるが、今回は過去の地震の時よりも1週間以上も遅い着工となった。しかも、仮設住宅が完成して入居ができるのは6月中旬以降、地震発生から約2か月後になるとのこと(実際にそのようになった)。
 仮設住宅の建設への着手が遅れた要因は、「避難者への対応やライフラインの修復に追われ、住宅の被害を調査する人員が不足、その後も地震が多発し、調査自体も難航した」ことによるものだという。熊本県知事は、4月29日の朝日新聞のインタビューで、「仮設住宅の建設に着手した西原村と甲佐町では従来の1.5倍の敷地に建て、集会所も併設します。西原村では県産材を使った温かみのある仮設住宅にします」と答えたという。確かに地震発生直後は人命救助と避難者の収容・援護が重点には違いないし、過去の反省を踏まえた仮設住宅の建設を検討したことにより時間がかかったことも分かる。しかし、被災地の行政の動きから察すると、震災前にそんなことの検討もなかったし、震災直後も仮設住宅の建設に早期に着手することについての意識はあまりなく、後回しにされていたのではないかと思われる。避難所で途方に暮れていた被災者の方々が気の毒に思えてならない。

 今回の熊本地震で明らかになった課題は−今後県や市町村で検証が行われると思われるので控えめに「推察」すると−、
 行政については、
 〆匈佳从本部運営体制・訓練不十分
 ∨漂匍鯏世梁竸眠宗運営体制不十分

 住民については、
 ー主防災組織の活動体制に不備
 避難所の運営体制の未確立

ということであったのではないかと考えられる。そして、結論として言えることは、「『風水害対応重視』で地震対策は軽視されていたのではないか?」ということである。
 台風のような風水害は、大規模な被害とは言っても、全職員を動員して対応しなければならないことは滅多にないので、概ね防災・危機管理と土木の部署が対応することで片付いてしまうし、住民は、行政からの避難勧告等に従って行政が準備した避難所に行けば、食料も寝具も何もかも行政職員が面倒を見てくれるので自分達が運営に携わる必要もない。−私達は、熊本でそのような状況を見てきたのではないかと思われる。
 行政が行うべき住民への最大の行政サービスは、「住民の生命と身体、財産を保護」することである。そのために行政職員には、日頃から防災体制の整備、とりわけ災害対策本部の運営体制を整備し、訓練等で災害対応能力を高めておくことが緊要不可欠なこととして求められている。今回の熊本地震でもまた、「備えなくして憂いあり」ということになってしまった。そのことを教訓として深く認識し、今後多くの人達に「警告」として伝えていかなければならないと思う。

 


※11回にわたりご紹介した今回の熊本地震の現地調査結果は、以下のPDFでも御覧いただけます。
 また、弊社の公式ウェブサイトからもダウンロード可能です。
 『「平成28年熊本地震」現地調査レポート〜被災地で「備え」について考えたこと〜



 末尾になりましたが、現地調査の実施にあたり、被災地において災害対応等でお忙しいなか対応していただきました関係者の皆様、お話を聞かせていただいた被災地の住民の皆様方に対し、心より御礼を申し上げます。
 そして、このたびの地震で被災された方々に、心からお見舞い申し上げるとともに、被災地の一日も早い復旧をお祈りいたします。