危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

※「「タイムライン(防災行動計画)」について考える(その1)」のつづき。
 「その1」は、2018年7月30日付の記事を参照ください。


 前回は、「タイムラインの概要等」についてご紹介しました。
 タイムラインは、災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に執るべき具体的な防災行動を共有するうえで極めて有効なツールですが、台風や大規模水災害のような事態において命を守るためには、住民一人ひとりが、避難勧告等だけでなく、自らが自分の身の周りで起きている状況や行政やメディア等から提供される降雨や河川水位等の情報から判断し、自発的かつ早期に避難する・できることが最も重要です。そのためにも、地域の自主防災組織や自治会等で自分たちのタイムラインや避難計画を作成する、あるいは、タイムラインの考え方を取り入れたうえで早期避難体制の確立を図るための取り組みが求められます。
 ところで、皆さんは、「マイ・タイムライン」というものをご存知でしょうか?
 今回は、住民主体のタイムラインの作成や取り組み等について、国土交通省関東地方整備局下館河川事務所のホームページの「★みんなでタイムラインプロジェクト★」のページで公開されている「マイ・タイムライン検討の手引き(平成29年5月)」の内容をご紹介するとともに、「マイ・タイムラインの検討」の一端について触れてみたいと思います。

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 阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大規模広域災害を経て、公助の限界が明らかになるとともに、自助・共助の重要性が広く認識されることとなりました。地震のみならず、洪水や高潮に対しても、自助・共助・公助のバランスを取って災害対策の充実を図ることが重要です。また、災害発生の予測が困難な地震と異なり、洪水や高潮は台風の進路や降雨の状況等を基に、災害(氾濫)発生までの事態の進行が予測できることから、時間軸に沿って事前に防災行動を整理しておく「タイムライン」が有効です。
 沿川の、特に氾濫水が到達する恐れのある地域(自治体)においては、「避難勧告等の発令に着目したタイムライン」を作成し、河川管理者と関係自治体が洪水の進行に備えた防災行動を整理するなど、行政間における洪水時の連携を確認・強化する取り組みが進められています。
 一方で、洪水から生命を守るためには、住民一人ひとりが自発的に避難行動をとることが重要ですが、現時点では、住民一人ひとりに、適切な避難のための知識や堤防等の施設では防ぎきれないような大洪水が必ず発生するという意識が、必ずしも浸透しているとは言えないのが現状です。
 これらの状況を踏まえ、国土交通省関東地方整備局下館河川事務所や常総市など、市町、県、国で構成する「鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」では、平成28年10月、住民一人ひとりが自分自身に合った避難に必要な情報・判断・行動を把握し、いわば「自分の逃げ方」を手に入れることを目的として、市町のサポートの下で住民一人ひとりが自らの環境に合ったマイ・タイムラインを自ら検討する「みんなでタイムラインプロジェクト」を始動しています。
 「マイ・タイムライン」は住民一人ひとりのタイムラインであり、台風の接近、河川の水位上昇等にあわせて、自らがとるべき標準的な防災行動を時系列的に整理し、とりまとめるものです。洪水は自然現象であるため、マイ・タイムラインがあれば常に安全ということではなく、台風、降雨、河川の状況等、その時々の状況を考慮して判断しなければならないことにも留意しておく必要はありますが、時間的な制約が厳しい洪水発生時に、行動のチェックリストとして、また、判断のサポートツールとして活用されることにより、「逃げ遅れゼロ」に向けた効果が期待されています。

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 単に「住民」と言っても、置かれている環境は人それぞれであり、例えば、家族構成一つをとってみても、単身の世帯もあれば、高齢者がいる世帯や乳幼児がいる世帯もあり、洪水からの避難方法は異なってきます。また、例えば、農家の方は台風接近前に見回りを済ませておくなど、職業によっても避難に向けた準備事項が異なってきます。家族構成、職業、常用薬等の必需品、立ち退き避難が必要か否か、自宅から避難所までの距離、避難のスピードなど、避難を左右する要素は住民一人ひとりで異なるものです。
 そのため、マイ・タイムラインの検討にあたっては、住民一人ひとりが、自らが置かれている環境等を踏まえ、自分自身に合った避難を自ら検討することが重要です。それにより、住民一人ひとりが洪水を「自分のこと」として捉え、洪水時になすべきことや洪水発生前に準備しておくべきことを具体的に考え、それらを自分のペースで行動に移せるよう整理することができます。
 マイ・タイムライン検討の主体はあくまで住民一人ひとりであり、行政は、マイ・タイムライン検討の材料を提供することや環境を整備することに注力することが望ましいとしています。そのため、マイ・タイムラインの事例を配布するようなことは避けることが望ましく、仮に配布する場合であっても、その事例と自分自身の相違点等を住民が自ら考えるように取り組むことが望ましいとしています。

マイ・タイムラインの検討過程
 マイ・タイムラインの検討過程では、住民一人ひとりが、自分自身の置かれている環境を再認識し、自分自身に合った避難に必要な情報・判断・行動を把握することが望まれます。一連の検討を経てマイ・タイムラインを作成した時には、参加した住民が、いわば「自分の逃げ方」を手に入れられているように取り組んでいくことが重要です。また、先にもあったとおり、洪水は自然現象であるため、マイ・タイムラインを一度作成すれば常に安全ということではなく、その都度、台風・降雨・河川の状況等を考慮して判断しなければならないことにも留意しておく必要があることから、マイ・タイムラインに盛り込まれたどの防災行動で台風、降雨、河川の状況等が把握できるのかを知っておくことが重要です。
 そのため、マイ・タイムラインの検討過程では、「自分たちの住んでいる地区の洪水のリスクを知ること」、「洪水時に得られる情報を知ること」、「洪水時の自らの行動を想定しておくこと」等について、知識を得るように進めることが望ましいとしています。また、これらの事項について、住民が自ら「考える」ことによって、洪水の進行を想定することができ、実際の洪水時の行動力を強化することができると考えられています。
 これらの事項を検討しながら、マイ・タイムラインを作成できる教材として「マイ・タイムラインノート」などが提案されています。これらの教材は、国土交通省関東地方整備局下館河川事務所のホームページの「★みんなでタイムラインプロジェクト★」のページからダウンロードが可能です。是非、活用されてみては如何でしょうか。

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 前述のとおり、マイ・タイムラインの検討は、住民一人ひとりが自分自身の置かれている環境を踏まえ、自分自身に合った避難を自ら検討することを基本としています。しかしながら、同様にマイ・タイムラインの検討を進めている他者と意見交換をすることにより、一人では気付かなかった「備え」や「避難行動のポイント」を知ることができるとともに、自分自身のマイ・タイムラインを客観的に見つめ直すことができ、マイ・タイムラインの検討をより深めることができます。
 そのため、同じ地区に住んでいるなど、置かれている環境が比較的似ている住民が集まった「マイ・タイムライン検討会」を開催し、複数の方が意見交換をしつつマイ・タイムラインの検討を進めることは非常に有効です。また、検討の過程で、同地区の方に相談することなどにより、個々の住民が持つ課題を地区で共有することができ、その解決策の立案にまで検討が及べば、共助の意識が芽生えることから、地域の防災力の向上にも繋がることとなります。
 検討会の規模については、日常的に顔を合わせるグループで行うことが活発な意見交換に繋がると考えられることから、平時から行われている町内会活動の状況等を踏まえて設定することが考えられます。また、検討会のみの開催では、検討が一過性のものとなる恐れもあるため、地区で行う行事にあわせて検討会を開催するなど、持続的な検討が可能となる工夫を講じることも重要であると考えられています。
 また、検討会には、地区の住民だけでなく、自治体、河川管理者、気象台、警察、消防等、防災に関して知識を有する者が参加することにより、より効果的な検討が可能になると考えられています。
 私も以前、業務の一環で、「お天気キャスターとつくろう マイ・タイムライン〜自分の逃げ方を考えよう〜」と題して茨城県筑西市で開催された検討会を拝見する機会を得ました。年配の方からお子さんまで多くの方々が参加しており、NHKのニュースでよく目にする気象キャスターの方のナビゲートのもと、みな真剣に、また、楽しそうにマイ・タイムラインの検討と作成を実践されていました。私自身も大変勉強になったと同時に、住民一人ひとりがマイ・タイムラインを検討・作成するキッカケとなる非常に有意義な取り組みであると感じました。
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【 検討会でマイ・タイムラインを作成する住民 】

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 マイ・タイムラインを検討することにより、以下のような成果が得られるものと期待されています。
 ❶住民は、マイ・タイムラインの検討の過程で、自宅周辺が浸水するか否か、
  過去に浸水が発生しているか否か、地形や土地の成り立ちなどの情報に接することができ、
  これにより、自宅周辺のリスクを認識することができる。
 ❷家族構成や常用薬などの必需品、避難先や避難に要する時間などを順に検討していくことから、
  住民が自分自身や家族が逃げるタイミングを整理することができる。
 ❸検討会を実施する場合は、意見交換をしつつマイ・タイムラインの検討を進めることになる
  ことから、地域のコミュニケーションの輪が広がる。
 ❹行政にとっては、マイ・タイムラインの検討を通じて、住民の具体的な避難行動を知ることが
  できることから、それらの住民の行動を踏まえてフィードバックすることで、
  より的確に住民避難を支援できるように行政側のタイムラインを充実することが可能となる。
 ❺行政だけでは担いきれない防災行動の必要性等が明確になれば、自治会や自主防災組織等が
  住民避難を支援するといった、共助の取り組みを考えるきっかけになり得る。

 如何でしたか?
 自宅の家具等の転倒防止対策をしておこう、水や食料等を備蓄しておこう、非常持出袋をすぐに持ち出せる場所に用意しておこう、家族と話し合ったり最寄りの避難所を確認したりしておこう、…等々、どちらかと言うと、とかく地震を想定した様々な備えの重要性等が叫ばれ、また、メディアなどでも盛んに取り上げられてきたように感じます。勿論、これはこれで、首都直下地震等の大規模地震発生の切迫性等を鑑みると、とても大切な備えであることは論を俟たないところです。しかしながら、地震災害のみならず水害等についても、こうしたマイ・タイムラインの検討・作成のように、今後、全国各地で水防災意識社会の再構築に向けた様々な取り組み等が幅広く普及し、地域防災力の強化に繋がっていくことを願ってやみません。