取締役
 下川邊 哲三

 災害や危機事案の発生時においては、「初動対応の重要性」がよく論じられます。
 対応の遅れ整合性・一貫性のない対応あるいは発言は、かえって問題(被害)を大きくし、信頼性を損なうものであり、いかに速やかに、正確な情報を、明瞭に伝えるかが極めて重要です。

 2018(平成30)年5月6日(日)に行われたアメリカンフットボールの定期戦で、日本大学の選手が関西学院大学のQB(クォーターバック)の選手に悪質なタックルをした問題は、その後の日大の対応の遅れと記者会見における加害選手と監督・コーチの発言内容の食い違い、監督・コーチの加害選手への責任の転嫁とも思える発言内容などから、大きな社会問題にまで発展しているのは周知の事実かと思います。
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【 アメフトの試合でのタックル(※イメージ) 】

 その後、5月22日(火)に、加害選手(学生)が単独で(異例ともいえる実名・顔出しの)謝罪会見を開きましたが、この際、監督・コーチ、日大側関係者の同席はなく、「誘われなかったから出なかった」といったような監督の発言がありました。
 話は少し逸れますが、自衛隊では、自衛隊を定年退職し、自治体等において防災・危機管理の業務を仕事として就職を希望・予定している陸海空の自衛官を対象に、「防災・危機管理教育」が実施されています。この研修は、自衛隊の援護教育の一環として年に数回、約1ヶ月間、場所はその都度変わりますが、毎回30数名の幹部自衛官を対象に行われているもので、本研修の支援を弊社が受注し、私も自衛官OBとして、また、講師(教官)として、現職自衛官(学生)を対象とした教育の一部を担任させていただいております。
 そうした背景もあり、こうした監督の発言や日大の対応等について、教育者として、この学生の弁護(擁護)はどうなっているのか、と感じました。ましてや大学は、教育現場(機関)として「人を育てる場所」です。加害学生の気持ちを思うと、これら一連の対応を非常に情けなく思うとともに、憤りを覚えたのが正直なところです。

 それに対し、謝罪会見前の5月18日(金)に、加害学生と御両親が負傷した学生とその御両親に会い、加害学生は自分の言葉で、その経緯の説明とともに謝罪を行ったそうで、負傷学生の御両親は、その誠意ある態度から発言内容の信憑性は高いと判断されたという報道を目にしました。
 いくら監督・コーチから指示のようなものがあり、また、心理的な重圧ともいえるものがあったのだとしても、加害学生が犯したプレー(行為)は明らかにスポーツマンシップに反するものであり、決して許されるものではありませんが、その後の対応については立派であり、むしろ好感の持てる対応であったように感じます。ケガをさせた選手等にきちんと謝罪をし、当初の日大アメフト部の主張を真っ向から否定したうえで監督やコーチが指示したものである旨をしっかりと主張するなど事実関係を明白にし、さらには、自分の責任や今後のことなどについても言及していました。
 記者会見は広報における手段の一つにすぎませんが、伝えたい事(伝えなければならない事)を伝えたい相手(伝えなければならない相手)に直接的・効果的に伝えることが可能となる貴重な機会であり、それを最大限に活用できていたと言えるのではないでしょうか。
 一方、監督・コーチが出席した日大側の記者会見等はというと、危機管理上のタブーの典型とも言えるような対応(広報)であったのは論を俟たないところです。

 前置きが長くなってしまいましたが、ここからは、今回の事例をひとつの教訓として捉えつつ、「災害時における広報」に論点を移して少し考えてみたいと思います。

〆匈音広報の目的
 災害時の広報対策は、被災者や被災地に関心を寄せている非被災地の住民に対して、次のような目的を持って必要な情報やメッセージを提供することです。
❶正確な情報をタイムリーに提供することを通じて、被害の拡大防止や民心の安定を図る。
❷各機関が行う応急対策活動への理解と協力気運を醸成する。

∈匈佳从本部が提供すべき情報
 災害発生にあたり災害対策本部が提供すべき情報については、殆どの自治体が地域防災計画の中で整理していますが、基本的には、各自治体の地位と役割に応じ、次のような情報内容を選択的に提供します。

【都道府県レベルでの提供情報】
 都道府県レベルの広報では、広域自治体としての立場から次のような項目が考えられます。
❶全県的な地震(本震・余震)の観測情報と今後の発生見通し、津波関連警報と到達見込み
❷全県的な被害状況
❸都道府県としての対処方針、特に緊急輸送路の指定状況や医療救護の体制、
 救援物資の供給構想、買占め防止や物価吊り上げ防止などの経済関連の呼びかけ等の周知事項
❹都道府県域における公共交通機関や電気、通信、上下水道、ガスなど、
 ライフラインの復旧状況や復旧見通し
❺都道府県の管理施設に所在している住民の安否情報
❻帰宅困難者の滞留状況や一時退避施設の場所、安全な帰宅経路、帰宅支援拠点などの
 帰宅困難者対策関連情報
❼ボランティア支援センターの開設状況と募集内容、受付施設、被災地の活動環境などの
 ボランティア関連情報
❽他都道府県や事業者への協力要請

【市区町村レベルでの提供情報】
 市町村レベルでは、被災住民の生活や行動に直結係わりのある具体的な情報を提供することが求められる他、被災自治体に不足している救援ニーズを積極的に発信していくことが必要です。このため、次のような項目が重要です。
❶域内の被害状況とその影響、特に火災の発生状況と延焼の可能性、延焼に伴う影響
❷避難勧告(避難指示)や警戒区域、消防警戒区域の設定事実と対象地域
❸保育園や小中学校など保護者の関心が高い施設や、病院、福祉施設など要配慮者の関連施設
 に所在する人たちの安否情報
❹一般避難所や福祉避難所の開設状況
❺医療救護所の開設場所や医療機関の診療可能状況、人工透析が可能な医療機関等の医療関連情報
❻応急給水場所や給水車による概略の給水時期
❼応急危険度判定や建物被害調査、応急教育・応急保育などの応急対策に係わる連絡事項
❽ごみの出し方や公衆(共同)トイレの使用方法、ペット飼育上の注意事項などの日常生活上のルール
❾各種相談窓口や行政手続きなどの事業継続関連情報
❿避難所避難者のニーズやボランティアニーズなどの被災地の救援ニーズに係わる情報

災害時広報実施上の留意事項
 災害時の広報活動では、次のような事項に留意する必要があります。

❶ニーズに応じた情報提供
 災害時広報にあたって最も重要なことは、受け手のニーズに合致した情報を提供することです。したがって、被災住民や非被災地での関心事項の時期的変化などを的確に把握し、それら受け手の情報ニーズを念頭に広報内容を発信していくことが重要です。

❷情報ニーズを把握するための情報収集
 災害時の広報活動では、往々にして情報の発信元である災害対策本部と受け手である被災者などとの間に行き違いが生じます。
 このような状況を回避するため、単に本部会議で発表された被害情報や対策内容だけではなく、避難所勤務の職員からの報告内容やマスメディアの現地レポートなどから被災者の情報ニーズを的確に把握するとともに、対策担当部署が把握している他自治体からの支援申し入れ状況などを適時に把握することが重要です。

❸多様な広報手段の活用
 一般に被災者の情報入手手段は多くの場合TV、ラジオですが、近年情報の入手手段は、SNS、メールなど多様化しており、その時点で利用可能な手段は積極的に活用する着意が必要です。この際、ツイッタ―などSNSを活用する場合には、情報の拡散速度の速さや情報内容の変質等を考慮し、発信内容や誤解を招かない表現などに十分な注意が必要です。
 なお、学校や保育園・幼稚園などは、保護者との間に固有の連絡システムを設定していますが、児童生徒・園児の安否情報や保護者への引き渡し時期などの重要情報については、これらの連絡システムのみならず市町村の広報手段も活用し、地域社会全体に発信する着意が必要です。

❹タイムリーな広報の実施
 災害対策本部が行う広報の実施時期については、定期的に行う広報の他、次に例示したような、重要情報を入手した場合や対策本部において重要な決定が行われた場合等には随時に広報する必要があります。

【重要情報】
 新たな災害の発生、新たな安否情報、被災者の生活に影響する情報(ライフラインの復旧、医療機関からのお知らせ、救援物資・応急給水関連情報、行政窓口の再開など)

【重要決定事項】
 新たな避難指示や避難勧告の決定、避難場所移転の決定、罹災証明の発行開始などの被災者生活支援対策の決定等

❺迅速な否定情報の発信
 被害の拡大防止や民心の安定を図ることも広報の重要な目的の一つですが、インターネット上には事実と異なる情報や事実無根の情報などが多数流れているものです。時には、マスコミ自身が対策本部の意図とは異なった見解を報道することもあります。これらの誤った情報は人心を惑わし、風評被害発生の元となることから、広報担当部署においては、誤った情報が流れていることを察知した場合には、機を失することなく、それらの情報内容を否定する情報(=「否定情報」)を発信することが重要です。

 最後に、災害時における広報の重要性と必要性について、下図にまとめました。
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【 災害時における広報の重要性と必要性 】


 5月27日(日)、負傷した関西学院大学の学生が、幸いにも無事に試合に復帰して活躍し、試合後、加害学生の選手復帰を望むと明かしたこと、また、アメリカンフットボールは危険なスポーツではなく、フェアですごく面白いスポーツなのだということを解ってほしい、といったコメントを残したとの報道を目にし、アメリカンフットボールにいそしむ学生たちは、やはり素晴らしい心根を持っているのだなと感動しました。
 日大の上層部の皆さんはどのような気持ちでこのコメントを聞いたのか、強く反省していただきたいと思うとともに、危機管理広報についても根本から見直していただくことを願ってやみません。