危機管理業務部 危機管理一課長
 松並 栄治

 最近、南海トラフ巨大地震が発生した場合の自治体の訓練を支援する機会が増え、南に向かう旅客機に乗ることが多くなりました。
 昨年度は、高知県、宮崎県、大分県、福岡県、沖縄県へ行く機会があり、羽田空港を離陸して各空港に着陸するのですが、巨大地震により大津波が発生した想定の訓練を支援するために降り立った空港は、どの空港も沿岸部に建設されており、津波が来襲したらすぐに大きな被害を受けそうな立地条件で、何だか複雑な思いがしてしまうのです。
 また、離陸した羽田空港、そして、飛行中に窓から見えた中部国際空港や関西国際空港も海に突き出た形をしており、津波に弱そうな空港であるように感じました。
松並_No.20_羽田空港01
【 沿岸部に面した立地に建設されている羽田空港 】

 そこで、海に面した空港が日本にどれ位あるのか調べてみることにしました。

 沿岸部の低地(海岸線より5km以内、標点20m以下)にある空港は、下図のとおり38箇所であり、全空港の約4割を占めます。上記の空港は、全てこの中に含まれていました。
松並_No.20_@沿岸部の空港
【 沿岸部の低地にある空港 】

 国土交通省によると、空港は震度4以上の揺れを観測すると閉鎖し、滑走路の状態などを点検したうえで再開します。しかし、津波警報が出ると空港職員は建物内に退避する決まりで、この間、滑走路上の旅客機は身動きが取れなくなるようです。

 東日本大震災では、仙台空港が津波に襲われ、滑走路等が水没、周囲は無数の自動車や瓦礫、小型飛行機が浮かぶ中で、空港ビルは「孤島」と化してしまいました。米軍が「トモダチ作戦」と称して、仙台空港の復旧を手伝ってくれたのは有名な話です。
 実際、仙台空港でも地震後、職員はターミナルなどに避難し、約1時間後には津波に襲われました。仙台空港に隣接する海上保安庁仙台航空基地では、小型機など4機が津波にのまれました。海上保安庁は視察・救助に飛び立つため、独自に滑走路の状態をチェックしていましたが、度重なる余震で作業が中断し、ヘリ1機を離陸させるのがやっとだったといいます。
 2011(平成23)年3月11日、東日本大震災が発生した午後2時46分は、普段なら大阪から仙台空港に日航機が到着する時間帯でしたが、この日は予定より1時間遅れで大阪空港を離陸した直後でした。地震の5分前には、大阪行きの全日空機が仙台空港を離陸、仙台を拠点とするアイベックスエアラインズ機は離着陸訓練中で上空にいました。地震発生時は、仙台空港の駐機場から旅客機が姿を消していたそうです。地震とともに滑走路は閉鎖され、大津波警報の発令で職員らも避難。再開のための滑走路チェックもできない状態が続きました。大津波が到達したのは1時間後のことだったそうです。国土交通省によると、「仙台空港に津波が到達する想定がそもそもなかった」ということです。

 空から見る沿岸部の空港は、中部国際空港、関西国際空港、神戸空港、大分空港、長崎空港、北九州空港のように、陸から突き出た形で建設されているもの、山口宇部空港、佐賀空港、那覇空港のように、沿岸に並行して建設されているもの、宮崎空港、高知空港、仙台空港、松山空港のように、沿岸から概ね直角に建設されているものに類別されますが、いずれも見るからに津波には脆弱であると思われ、早急なハードとソフトの両面からの津波対策が必要であるものと思われます。