危機管理業務部 研究員
 坂上 栄一

 これまで自治体等の災害対策本部運営図上訓練を支援し、また、その訓練計画を作成していく中で、自治体が作成する地域防災計画における災害時の対策本部の編成が、自治体毎にそれぞれ異なっている(例えば、名称が異なる、本部内に連なる各部の編成が異なるなど)ということを常々感じておりました。「編成が異なる」主な理由としては、各自治体が独自で編成を検討・作成しているからなのですが、そんな時にふと、「標準化」という言葉を思い出しました。
 詳しく知りたいと思ったので、インターネットで「標準化、災害」というキーワードで検索してみると、「ICS」というものがヒットしました。とても興味深い内容でしたので、今回は、このICSについて簡単にご紹介できればと思います。

 ICS(Incident Command System)とは、米国で開発された、あらゆる災害・事件対応等において、組織の運用(命令系統や管理手法)を標準化したマネジメント体型のことです。インシデント・マネジメント・システム(Incident Management System)とも呼ばれているようです。
 米国では、災害対応のみならず、マラソンやスポーツイベントなど、あらゆる危機管理事案がこのICSに基づいて実施されているとのことです。
 このICSは、米国において1970年代に山林火災対応の失敗を教訓に開発され、その有効性が認められ、徐々に災害対応に関わる他の行政機関や医療機関、企業等で利用が拡大したということです。

 我が国においては、1995年の阪神・淡路大震災以降、指揮調整機能や関係機関の連携を強化するため、導入の必要が叫ばれました。2011年の東日本大震災での災害医療対応の反省を踏まえ、日本医師会と厚生労働省有志により、米国危機管理協会協力のもとガイドブックが出版され、これが日本における普及の端緒となったようです。
 そのガイドブックですが、以下の6つの要点でまとめられています。
1 現場指揮について
2 指揮統制コマンドアンドコントロールと調整コーディネーション
3 指揮系統チェーンオブコマンドの原則
(1)複数組織が関わる現場での統合指揮
(2)指揮一元化
(3)統制範囲
4 災害現場と災害対策本部の位置づけ
5 共通状況図
6 緊急時行動計画


 この中で、特に興味を持った内容について、以下にご紹介します。

。厩爐痢峺従貉愆」について
 災害対応を行う組織は、現場指揮、実行、企画、包括支援、財務・総務の5つの機能・部門から構成されています。企画部門には情報の収集・分析が含まれています。災害対策本部も概ねこの4つに部門分けができると思います。
 実行部門は現場指揮者の指示のもと目標達成のために、残り3つの部門である企画、包括支援、財務・総務は、実行部門の活動を支援することになります。

■街燹複院砲痢崚制範囲」について
 一人の人間が効果的に監督できる部下の数は3〜7人である(5人以下が望ましい)という原則です。人員が足りないとやみくもに増やすのではなく、統制範囲の原則に基づいて増員していくことが望ましく、統制範囲を超えたら、その下に下部組織を設置し、組織を垂直拡大させていくことが大切です。
坂上_No.01_ビジネスマンと組織図
4項の「災害現場と災害対策本部の位置づけ」について
 災害対策本部の役割は、災害現場の活動を支援、調整することです。後方に設置される災害対策本部が現場活動の詳細を把握することは現実的には不可能です。災害対応は現場に権限委譲し、災害対策本部は現場が目の前の活動に専念できるように支援・調整することが求められています。

 以上、ICSの一部についてご紹介しましたが、「標準化」は言い換えればマニュアル化するということです。災害時の緊急事態は時間との戦いであり、いかに迅速に質を高めて対応するかが重要です。
 各自治体等では地域防災計画がオープンにされており、誰でも見ることができます。実際に災害対策本部として活動するには災害対処マニュアル等が必要ですが、まだ整備されていない自治体もあると思います。災害対処マニュアルを作成するにあたっては、この統制範囲の原則に基づき、4つ等の部門と、その配下に関係する部を構成し、効果的な編成としたうえで行動可能なマニュアルを早期に作成することが望まれます。そして、各自治体等の災害対策本部編成やマニュアルを「標準化」していくことができればと感じています。

 今回の事例のように、海外にも積極的に目を向け、関連する知識を習得するなど、まだまだ学ばなくてはならないことが沢山あることを痛感した次第です。