危機管理業務部 主任研究員
 岩澤 央夫

 平成23年3月11日、東京電力福島第一原子力発電所は、東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波に被災し、極めて重大で広範囲に及ぼす原子力事故が発生しました。    
 この事故後、万が一、原子力施設で事故が発生し、原子力災害に至る事態に発展した場合、これらによる被害から、国の統括のもと地方公共団体、原子力事業者と連携し周辺住民等の健康と財産を保護するための原子力防災体制が見直し、整備されました。

 今年度も、UPZ内、つまり原子力発電所から30km範囲以内の各自治体は、原子力防災訓練、原子力防災対策要員研修等を企画・実施しています。
 某県においても、平成30年度に原子力防災基礎研修が行われました。
 研修目的は、原子力防災業務に初めて従事する方を対象とし、最低限身に着けるべき放射線の基礎及び放射線測定器の取扱い等の資器材に関する基礎知識等について研修を通じて習得し、能力の定着化を図ることを目的とするものでした。
 初めて原子力防災業務に従事するには、放射線の基礎知識を習得からというわけです。
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 私は初めて放射線について知ったことがあります。それは、「日常から我々は放射線を受けている」ということです。
 自然放射線は、宇宙から、大地、食物や空気中のラドンにより、被ばくしています。日本では年間一人当たり約2.1mSv、世界では約2.4mSvといいます。 
 人工放射線は、レントゲンやCTスキャン等医療に利用されている放射線、核実験の放射性降下物等があり、どちらも影響は同じだといいます。
 
 実習で、線源等を計測する前に、バックグランド放射線を計測し、線源の計測の値からバックグランドの値を引いた値が線源の正味の値であると知りました。バックグランド放射線とは、自然放射線及び人工放射線、核実験等の残留放射性物質による放射線をいいます。ちなみに実習室のバックグランドの値は、0.07μSv/h(ガンマ線)でした。
 自然放射線には地域によって差があります。日本国内の自然放射線は、関東地方や東北地方では低く、関西地方や中国地方では比較的高いです。これは、大地に含まれる放射性物質(カリウム、ウラン、トリウム等)の違いがあり、花崗岩は、放射性物質を多く含み、玄武岩は比較的低いです。外国では、イラン、ブラジル、インド、中国の一部の地域では、日本の10倍被ばくするところもあります。しかし、このような自然レベルでは健康影響に問題ないといいます。
世界と日本の比較自然放射線

 人体に影響する放射線量は、どれくらいなのでしょうか。
 現在、福島県の避難している町村では、除染が完了した地域を中心に、特例宿泊等行われていますが、宿泊している住民の中には年間1mSvを超えるような線量の方もいるといいます。国際放射線防護委員会が勧告する一般人の線量限度は、年間1mSvが目安となっています。1mSv超えた線量を被ばくしたといって健康影響が見られるわけでないです。平時に放射線から身を守る防護の基準です。東京電力福島第一原発事故のような放射線災害が発生した際には「年間100〜20mSvの範囲のなるべく低いレベルの被ばく線量で終える」こと、いったん災害が収束した後には「年間20〜1mSvの範囲で徐々に被ばく線量をさげていく」ことを勧告しています。
 一度に100mSv以上の放射線を受けた場合、細胞死の原因とする人体の影響が生じます。ちなみに、4,000mSv程度被ばくすると、被ばく後30日以内に50%死亡、7,000mSvを超える被ばくを受けると100%死亡すると考えられています。
線量と確定影響

 被ばくを防ぐには、3つあります。外部被ばくの防護、内部被ばくの防護、そして、体表面汚染の防護がありますが、内部被ばくは、放射性物質を体内に取り込まない、体表面汚染は、放射性物質を直接身体に付着させないことであり、これらは自ら意識して対応できると考えます。外部被ばくが、避難行動に密接に影響しますが、防護には防護三原則があります。
 1つ目は「距離」です。放射線の強さは、放射性物質からの「距離の2条に反比例」して小さくなります。
 2つ目は「遮へい」です。建物の屋根や建造物も放射線を遮る効果があるので、外にいるよりも屋内にいる方が放射線を遮る効果が大きいので、より安全ということになります。木造家屋は、ガンマ線の影響に対し10%、コンクリートは40%低減の効果があるとされています。
 3つ目が「時間」です。放射線の被ばく線量は、時間に比例して大きくなるため、活動時間を短くすれば、それだけ被ばくを減らすことができます。
 よって、「防護活動の手順」「役割分担」「活動場所の空間線量率の把握」を明確にし、少しでも無駄に被ばくしないようにすることが重要です。
 
 原子力災害では、放射性物質、放射線の放出という特有の事象が生じ、その影響をすぐに五感で感じることができません。被ばくしたのか、どの程度かを判断できないのです。知らないという不安、広島や長崎の原爆のイメージ等からむやみに恐れること、なぜ屋内退避が有効なのか、なぜ今避難しなければならないのか、なぜ安定ヨウ素剤を服用の時期が指定されるのか等を考えると、放射線に関する正しい知識を身に着けることにより、放射線をむやみに恐れることなく、「正しく恐れる」ことができ、適切な管理及び防護措置を実施し実効性の高い原子力防災活動を行うことができるのです。また、住民にも的確に情報を伝えることができるのです。

 今回の原子力防災基礎研修を通じて、そういった、原子力防災対策を効果的に実施するためには、防災業務に携わる人々が放射線や放射性物質について十分理解した上で、周辺住民等は勿論、原子力防災に携わる人々を放射線の影響から守るかについて学ぶ必要があると改めて確認できました。