危機管理業務部 主任研究員
 大木 健司

 2016年4月の熊本地震では、多くの「災害関連死」が発生しました。
 マスコミの報道等によりますと、熊本地震による災害関連死と認定された死者は、発生2年後の平成30年4月14日現在、212人と死者全体の約8割に及んでいます。
 また、その災害関連死の約9割が60歳以上の方でした。
(※東日本大震災における災害関連死も約9割は66歳以上の高齢者でした。)
 さらに災害関連死の原因は、地震のショックや余震への恐怖による肉体的、精神的負担が約40%だったということや災害関連死に認定された人の約3割は、車中泊経験者であったということです。
 「災害関連死」に至った直接的な要因(死因)は、脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症等、様々ですが、間接的な要因としては、長期にわたる避難生活により慢性疾患が悪化し、死に至ったケースが多く見られるようです。
 シリーズ,能劼戮泙靴燭、リスクを承知のうえで避難行動を支援し、せっかく「救った命」が、避難生活での肉体的・精神的疲労が原因となって失われて行くのは残念なことです。
 では、如何にすれば災害関連死を防止することが出来るのでしょうか。
 一次避難所(小学校の体育館の様な一般的な避難所をイメージしてください)における「災害関連死」防止策について、避難所を開設・運営する側(自治体職員や自主防災組織等)の立場で考えて見ます。
 まず、「災害関連死」に至りそうな避難者を見つけておくことが重要です。
 その第一は、過去の統計が物語るように、健康上の問題を抱えていることが多い「高齢者」、次に障害者、要するに避難者の中から「要配慮者」と総称される高齢者、障害者、乳幼児、妊婦等を把握しておくことが必要です。
 健常者の中からも災害関連死に分類される人(例えば自殺者等)が発生しますが、医療などの専門的知識がない自主防災組織の避難所運営員等が把握できるのは、「要配慮者」でしょう。
 次に重要なのが、「要配慮者」ごとに抱える問題の把握と改善処置です。足が不自由で車椅子生活の人は、避難所のトイレに行くもの大変ですし、車椅子の姿勢から便器に腰掛けるのも一苦労です。まして和式便器しかないトイレでは膝を曲げてしゃがむこと自体が困難な人も居ます。こんな理由からトイレを我慢するために水分の摂取を控えて脱水症状を引き起こし、体力や免疫力が低下します。同じ姿勢で動かないことが深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の原因にもなります。
 改善処置の一例は、要配慮者スペースをトイレの近くに設ける。車椅子でも入れる要配慮者専用のトイレを設置すること、などです。
 乳幼児を連れた母親には、授乳やおむつ替えのためのプライベートスペースを準備するだけで精神的な負担を軽減できるでしょう。
 避難者全員の継続的な健康チェックも重要になります。誰でも使用できる体温計や簡易血圧計などを準備して、体温、血圧、脈拍等を定期的に測定し、その変化に注意します。 
 日常の観察(健康チェックの際の会話など)や測定結果から、健康状態の悪化(発熱、嘔吐、下痢、高血圧等)や精神的負担が見られれば、避難所を所轄する自治体(避難所担当職員等)に要望し、早期に医療機関に受診させるなどの処置をしましょう。
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                 【要配慮者の健康チェック】

 また、災害の規模が大きくなればなるほど、医療機関への受診が困難になるということも、ある程度踏まえておくべきことと思います。
 なぜなら病院等の医療機関が広域的に被災することにより、被災地外の医療機関に行かなければ医療行為を受けらないケースが数多く発生するからです。「慢性疾患が悪化」、「人工透析が必要」、「酸素療法が必要」など、継続的な医療行為が必要な在宅療養者が避難所生活を余儀なくされますが、病院に連れて行きたくても近傍の病院は機能していない。被災地外の医療機関までの移動(輸送)手段がないなどの理由により医療行為が遅れます。
 東日本大震災では、特に広域避難を余儀なくされた福島県では、必要な医療行為が受けられずに死に至ったケースが数多く見られました。
 これらのケースのうち、慢性疾患の悪化は、避難時に「常用薬」と「お薬手帳」を携行することにより、ある程度防止できると思われます。
 高齢者に多い高血圧に対する降圧薬も何種類もあるようですが、「常用薬」が手元になくても「お薬手帳」があれば、常用している薬の情報を医師・薬剤師に正しく伝えることができ、処方が可能になるようです。
 東日本大震災においては、避難所等に避難している高血圧や糖尿病等の慢性疾患の患者から、被災前に服用していた常用薬の名称を聞いて、「お薬手帳」に記載することにより、適切な診療が可能となりました。また、救護所等で処方された薬の名称を「お薬手帳」に記載することにより、避難所(先)が変わっても継続した治療が可能となったとのことです。
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                 【熊本地震における避難所生活の様子】