危機管理業務部 危機管理二課長
 松田 拓也


 今般の新型コロナウィルスのような感染症の流行下において自然災害が発生した場合、避難所では、換気やパーティションの設置など3密(密閉、密集、密接)を避けるための工夫が求められています。政府や自治体でも感染症下における避難所運営のあり方について様々な検討がなされ、方針が示されています。
 一方で原子力災害が発生した場合はどうすべきなのでしょうか。原子力災害が発生した場合の特徴的な避難方法の一つに「屋内退避」というものがあります。
 「屋内退避」は放射性物質を含んだ外気を室内に入れないために行います。「屋内退避」の効果として、放射性プルーム中の放射性物質を呼吸により接種する影響を75%低減できるとされています。このため「屋内退避」では、窓を目張りし、換気扇を止めるなどして密閉状態を作ることが重要とされています。
 では、原子力防災における「屋内退避」で求められる密閉の状態と、感染症対策のための3密の回避をいかに両立させるべきなのでしょうか。
 基本的な考え方については令和2年6月2日に内閣府(原子力防災担当)から「新型コロナウィルス感染拡大を踏まえた感染症の流行下での原子力災害時における防護措置の基本的考え方について」(以下、「基本的考え方」という。)という文書が公表されています。
 記述されている主な内容は以下の4項目です。
 ヾ鏡者や感染の疑いのある者も含め、感染拡大・予防対策を十分考慮した上で、避難や屋内退避等の各種防護措置を行う。
 具体的には、避難又は一時移転を行う場合には、その過程又は避難先等における感染拡大を防ぐため、避難所・避難車両等における感染者とそれ以外の者との分離、人と人との距離の確保、マスクの着用、手洗いなどの手指衛生等の感染対策を実施する。
 自宅等で屋内退避を行う場合には、放射性物質による被ばくを避けることを優先し、屋内退避の指示が出されている間は原則換気を行わない。
 ぜ然災害により指定避難所で屋内退避をする場合には、密集を避け、極力分散して退避することし、これが困難な場合は、あらかじめ準備をしているUPZ外の避難先へ避難する。

 上記4項目を踏まえ、原子力災害からの避難における感染症対策を場合分けして見てみましょう。
原子力災害避難時における感染拡大・予防策

1 感染者
 基本的考え方の々爐任蓮感染者や感染の疑いのある者も避難や屋内退避をさせると記載されています。このため、感染症病棟に入院している感染者は転院することになります。この間の移動は救急車等で運ばれるものと考えられるため、3密による感染拡大のリスクや放射性物質による被ばくのリスクは非常に少なくなるものと思われます。
 なお、感染症指定医療機関の病床数は限られているため、感染者の転院を行った場合には、避難先の自治体における病床の使用率を圧迫するものと思われ、感染者の受入先調整が難航するものと考えます。

2-1 屋内退避(自宅)
 基本的考え方の9爐任蓮⊆宅で屋内退避を行う場合には、原則換気を行わないこととしています。
 自宅内であれば、家族以外の人との接触がなく、感染リスクは平常時と変わらないことから、放射性物質による被ばくを避けることを優先するという考え方です。

2-2 屋内退避(自然災害避難所)
 感染症流行下かつ自然災害により避難所に避難している際の屋内退避について、基本的考え方のす爐任篭卜亙散して退避することとし、これが困難な場合にはUPZ外の避難先へ避難するとしています。
 この考え方に基づくと、自然災害の避難所となる学校などでは、体育館内で人と人との間隔を空ける、あるいは教室等に分散して避難するなどの対策が必要になります。公民館や集会所といった小規模の避難所では、より密閉された環境になることから感染リスクが高くなります。このような場合は一時移転に先んじてUPZ外の避難先に避難することになります。
 自然災害における避難所においては、まずは感染症対策を適切に行うことを優先的に考えることが重要です。
 また、避難先自治体では、原子力災害の進展より先に一時移転が始まることがあることを認識しておく必要があります。

3 一般(自家用車避難可)の方の避難
 避難・一時移転を行う際、多くの方は自家用車での避難となります。
 この際、自宅からUPZ外の避難先まで人との接触がありませんので感染リスクは小さいものと考えます。
 避難退域時検査場所を通過する場合には、検査要員との接触をしますが、検査要員は被ばく防護の観点から呼吸管理を徹底しているため、検査要員からの感染についてもリスクは低いものと考えます。

4-1要配慮者(施設入居者)
 施設に入居している要配慮者については、施設の計画に従い、屋内退避あるいは避難・一時移転をすることになります。
 施設においては、入居者及び職員以外との接触がなく、感染リスクは平常時と変わらないことから、放射性物質による被ばくを避けることを優先するという考え方です。

4-2要配慮者(在宅)の方の避難
 自家用車避難ができない方、すなわち障がい者の方や長距離運転が困難な高齢者・妊婦などは、一時集合場所に集合し、避難バスで避難所に向かいます。
 原子力災害における避難・一時移転において、最も密になる可能性が高い区分です。
対策として、まず一時集合場所では、入口での検温・消毒のほか、待機場所の間隔を離して広くとることが重要です。この際、換気もしたいところですが、放射性物質放出下であることを考慮して密閉された室内に留まります。
 検温で高い数値が測定された場合には、一時集合場所に別室を設けて滞在させるような工夫も必要です。
 また、一時集合場所に長時間滞在することは感染のリスクを高めることにつながります。避難バスが一時集合場所に配車されたのちに一時集合場所に移動するなど、できるだけ自宅での屋内退避を続け、一時集合場所に滞在する時間を少なくするよう留意が必要です。
 避難元自治体では、一時集合場所での感染拡大・予防策の徹底及び一時集合場所への集合時間の広報が重要になります。
 また、体温が高く感染のおそれがある方については別途避難手段を手配する必要があることから、より多くの輸送手段の確保が必要になることを認識しておくことが重要です。

5 避難所
 避難所に関しては、UPZ外であり、放射線の影響のない場所ですので、一般災害対応と同様に換気を行い、距離を保つことで感染者対応ができます。
 受入れ自治体では、感染症拡大・予防に配慮した避難所運営を行うことが重要です。

 新型コロナウィルスの感染状況はいまだ予断を許さない状況でありますが、感染症、自然災害、原子力災害が同時に起こる可能性はごく小さいものの無いとは言い切れません。最悪を想定し、どのような状況になるかを考え、備えておくことが重要です。