危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

 集中豪雨や台風の際に、自治体が発令する「避難勧告」を廃止し、「避難指示」に一本化することなどを柱とした改正災害対策基本法が5月10日(月)に公布され、自治体が避難情報の発令基準等を検討・修正等する際の参考となるよう、これまでの「避難勧告等に関するガイドライン」という名称を含めて改定し、「避難情報に関するガイドライン」として公表されました。今回の改定にある、災害時における新たな避難情報は、5月20日(木)から運用されており、今年の出水期(大雨シーズン)を前に、避難に関する情報が大きく変わったことになります。
 本記事では、内閣府防災情報のページで一般に公開されている内容の他、テレビやインターネットで報道されていた内容等も参考に、今回の改定のポイント等について端的にご紹介できればと思います。
新たな避難情報に関するポスター・チラシ表面
新たな避難情報に関するポスター・チラシ裏面

【出典】内閣府防災情報のページ「避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月10日)
新たな避難情報に関するポスター・チラシ」

 今回の災害対策基本法の改正により、自治体が発令する避難情報等を、災害発生の切迫度に応じて5段階で示す大雨警戒レベルについては、
レベル3は、従来の「避難準備・高齢者等避難」→「高齢者等避難」に、
レベル4は、従来の「避難勧告」「避難指示(緊急)」→「避難指示」に一本化、
レベル5は、従来の「災害発生情報」→「緊急安全確保」に、それぞれ変更されました。

 レベル3は、従来は「避難準備・高齢者等避難」でしたが、「高齢者等避難」に変更されました。これは、従来よりも対象を明確にし、高齢者や介助が必要な人などの避難に時間を要する人に対して、早めの避難を強く促しています。
 なお、これら高齢者等のみならず、その他の人についても、身の危険を感じたら自主的に避難を開始する段階ということになります。

 レベル4は、従来は「避難勧告」と「避難指示(緊急)」がありましたが、「避難勧告」を廃止し、「避難指示」に一本化されました。かねてより、勧告と指示では何が違うのか、何をもって避難を判断(基準に)すればよいのかなど、分かりづらいといった声も聞かれましたが、逃げ遅れをなくす(あるいは、ゼロを目指す)ために、レベル4の「避難指示」のうちに危険な場所にいる人は「必ず避難する」ことを周知徹底した、シンプル且つより強い措置になったと言えます。

 レベル5は、従来の「災害発生情報」から、災害の発生にかかわらず命の危険が迫っていることを伝える「緊急安全確保」に変更されました。
 これまでと大きく違うのは、従来の「災害発生情報」とは違い、自治体は災害の発生を確認しなくても、災害が切迫している状況であると判断した場合に「緊急安全確保」を発令することができます。一方で、自治体が災害の状況を確実に把握できるものではない等の理由から、必ず発令されるものではないという特性があることにも注意が必要です。
 いずれにせよ、レベル5の段階になると、既に安全な避難が出来ない、命が危険な状況になっていることから、例えば、暴風雨の中を無理に避難所等に避難をせず、自宅(建物)の2階以上に移動(垂直避難)する、山間部にお住まいの方は山(崖)側の部屋から離れるなど、考えられる少しでも安全な場所で、その時に出来得る命を守る行動を確実に執るということが何より重要となります。
 なお、大雨特別警報については、従来はレベル5相当とされていましたが、レベルをつけずに報じられることになりました。

 また、今回の改正により、避難行動要支援者の円滑かつ迅速な避難を図る観点から、個別避難計画(仮称)について、市町村に作成を努力義務化しました。
 さらには、災害発生のおそれ段階(例えば、甚大な被害が予想される大型台風の接近など)において、事前に内閣総理大臣を本部長とする災害対策本部の設置を可能としました。
 併せて、首長が居住者等を安全な他の自治体に避難(広域避難)させることが必要となるような大規模災害に備えて、必要となる自治体間の協議を可能とするための規定等を措置しました。国の主導により、自治体間の調整及び鉄道や運送事業者等へ協力を要請することで、災害発生前の迅速な避難に繋げるとしています。

 何度も似たような形で変更されると、かえって混乱する要因になりかねないとは思いますが、結果的には、これまでよりも「分かり易く」「しっかりと伝わる」改正になったとのではないかと感じています。
 私たちは、今回の避難に係る改正内容をきちんと理解・認識したうえで、やはり自らの命は自ら守る「自助」の意識を持つとともに、地域等全体で「逃げ遅れゼロ」に向けた「共助」の取り組みを推進していくことこそが何よりも重要と言えます。