危機管理業務部 副部長
下川邊 哲三
「訓練で出来ないことは、本番でも出来ない」、「訓練は本番のように、本番は訓練のように」などとよく言われますが、全くその通りだと思うことが今回の東日本大震災で起きていました。
5月14日読売新聞の朝刊に掲載された「保育中の園児死亡ゼロ:犠牲者ゼロの奇跡」の記事は、ご覧になった方もおられると思います。
記事の概要は、宮城、岩手、福島の3県で被災した保育所が315あり、このうち全壊や津波による流失など甚大な被害があった保育所が28以上あることが分かりましたが、保育中の園児や職員で避難時に亡くなった例は、これまでの報告では「ゼロ」だということです。
ある保育園では、地震が起きた時間は園児の昼寝中で、保育士は園児を起こし、着替えさせ、園児全員を確認し、0歳児はおんぶし、乳児は台車に乗せ、2歳児以上は手をつないで歩かせて、高台の避難所へ避難をしたとのことでした。
これまでの訓練では、目的地まで12分40秒かかっていたそうです。しかし、振り返ると保育園が津波で漂流していたことから、「ここも危ない」と判断し、更に高い場所に園児を誘導し津波から逃げ切ったそうです。なお、その夜は、さらに3km先にある小学校に避難し、保護者に引き渡したのは3日後だったとのことです。
乳幼児を預かる保育所は、各種災害を想定した避難訓練を毎月行うことが義務付けられていたそうですが、宮城県子育て支援課によれば「預かった園児に犠牲が出なかったのは、保育士らの冷静な対応と日頃の訓練による的確な判断が子供の命を守った。」とのことでした。
<東日本大震災時の宮城県内の津波被害 >
今回の実例は、「日頃から訓練していたからこそ出来た行動」であり、園児も、そんな頼もしい保育士の方々の姿を信頼できたからこそ付いていったのでしょう。
幼い園児の命を救うために無我夢中で行った今回の行動は、まさに日頃の訓練の賜物であり、保育士の方々の迅速かつ冷静な行動に感銘を受けるとともに、避難訓練の重要性を改めて痛感しました。