営業部長
 大宅 憲二

 平成23年3月11日(金)に発生した東日本大震災においては、首都圏でも交通機関が一斉に停止したことで多くの帰宅困難者が発生し、ターミナル駅での混乱や交通網の混雑などの状況が発生しました。

 発災時、弊社は埼玉県の某市で図上訓練を実施中でしたが、地震発生に伴い訓練が中止になったことから、訓練支援のため現地に赴いていた弊社社員も主に徒歩での帰宅を余儀なくされました。
 帰宅時の様相については、首都圏に在住の方であれば容易に思い返すことができるかと思いますが、道路は車両等で大渋滞、歩道は徒歩で帰宅する方で大混雑、駅やバス停は滞留者で溢れ、公衆電話には行列ができ、コンビニ・スーパー等からは水や食料がなくなる、などといった、これまで首都圏では見たことのないような状況が生起しておりました。
 その帰宅途上で散見されたのは、ヘルメットを被り、運動靴を履き、帰宅支援セットなどが入った非常持出袋を背負った人達でした。その中の一部の方にお話を聞いてみると、それらの防災用品については、会社で各人のロッカーに保管しているとのことでした。防災意識の高い会社は、やはり日頃から非常時の準備をしっかり整えているのだと改めて感じました。
非常持出袋
< 発災当日の夜、非常持出袋を背にした帰宅困難者 >


 今回の地震において、遠距離を徒歩で帰宅した人達が600万人いたとの資料もありますが、一部の電車が21時頃には運行を再開したこともあって、特に大きな混乱はありませんでした。
 しかしながら、近い将来の発生が確実視されている「首都直下地震」が発生した場合は、今回の東日本大震災における首都圏の様相とは異なり、停電で信号が作動せず交差点で人と車両の大混雑が発生したり、道路の損壊、建物の倒壊、交通機関の停止、延焼火災、ライフラインの被害などにより、帰宅困難者数は約650万人(中央防災会議の被害想定による)に上ると想定されています。特に、地震の発生時刻が夕方に差し迫る時間帯であれば、暗闇の中を徒歩で移動することになると予想されます。
 中央防災会議が策定した「首都直下地震対策大綱」(平成22年1月修正)にも記載されているように、地震発生時においては、「むやみに移動を開始しない」という基本原則の周知・徹底が必要です。
 家族の安否確認等のため、会社、学校、外出先から一刻も早く帰宅したいという気持ちは理解できますが、道路の混雑等が生じている状況下での無理な帰宅は、救助・救急活動や消火活動、緊急輸送活動等の応急対策活動を妨げるおそれもあります。それらの活動を妨げないためにも、企業・学校等においては「従業員、児童・生徒等を施設内で待機させて、帰宅させない」という基本原則の確実な実行が求められます。
 そして、できるだけ翌日以降に帰宅を開始する「翌日帰宅」や時間をあけて帰宅を開始する、あるいは施設内で一時待機したのち帰宅する「時差帰宅」を、行政、企業、学校、大規模集客施設など、社会全体で考え、浸透させていくことが大切です。