危機管理業務部 部長
 山本 忠雄

※「東日本大震災の特徴から防災体制の整備を考える(その1)」のつづき。
 「その1」は、2011年8月1日付の記事を参照ください。



 東日本大震災の特徴の1番目に、「地震や津波による被害の規模が想定をはるかに超える大きなものであったこと」を挙げました。
 今回はこれを受けて、今後の防災体制の整備はどうしたら良いかということについて考えてみます。

 3月11日の大地震と大津波、それに伴う原発の事故の後で盛んに使われたのが「想定外」という言葉でした。
 防災対策は、端的に言うと、被害想定を行い、その想定される被害をできるだけ少なくする、あるいは防ぐということを目標にしています。地域防災計画は、自治体の防災の根本となるものですが、たいてい最初に被害の想定が記述され、それに対応するためにどのような体制・対策を執るかという、いわゆる災害応急対策が記述されるという構成になっています。
 我々は今回、想定を越えるような震災がありうるという当然のことを改めて痛感させられた訳ですから、当然のことながら「被害想定の見直し」「想定を超える事態への対応要領の検討」ということが必要になるのではないかと考えます。

被害想定の見直し
 被害想定は、その時点での災害要因の分析や定量的な被害を予測したものであり、防災対策を効果的に進めるための基礎資料として活用されるものです。
 例えば静岡県では、昭和53年、平成5年の2度に続いて平成10年度から12年度までの3カ年をかけ、平成7年の阪神・淡路大震災の教訓などを踏まえた「第3次地震被害想定」を実施し、切迫する東海地震対策の根拠としています。
 より実態に合った効果的な防災対策を実施するためには、社会環境の変化及び最新の科学的知見や事例研究等の成果を反映させた、より実際的な被害想定を実施する必要があります。災害予防の観点に立てば少し厳しいものにする方が良いかもしれません。
 今回の大震災では、明治三陸地震をベースとした被害想定とは桁違いの被害となり、津波に関しても貞観地震に関する研究成果が活かされていなかったことが明らかになりました。このようなことから、中央防災会議は東海・東南海・南海地震などの被害想定を見直すこと決め、東京都などの自治体にもそのような動きがあることは良いことだと思っています。

想定を超える事態への対応要領の検討
 自治体の本部運営に係る図上訓練などでは、死傷者や建物の倒壊、火災などの被害を設定しますが、その拠るべきものとなるのが上に述べた「地震被害想定」です。
 実際の訓練の場では、この被害想定が金科玉条となり、それを超えるような被害を出すのはおかしいと言われることがあります。また、それでも被害が大きすぎるから少し減らしてくれ、あの橋が落ちるのはおかしいとか言われることもあります。でも、考えてみて下さい。我々は被害想定の訓練をしている訳ではなくて、発生するであろう事態にどのように対応したら良いかということを考えるための訓練をしているのです。「本番はマニュアル通りにはいかない」とは良く言われることですが、それと同じように被害想定は一応の目安であり、本番がその通りの被害になるとは限らないのです。ハザ−ドマップが、ここは安全だと誤解させているという意見もあります。
 陸上自衛隊が作戦計画を練る場合には、「設想」という特別な条件を設けることがあります。その時点では不明であるが、生起する公算が大きく計画等の変更が必要になるというような場合に設けます。簡単に言えば、「もし、こうなった場合にはこのようにする」といったものです。
自衛隊
< 自衛隊員を対象とした図上訓練の様子 >

 今回の大震災は、「まさに想定どおりの地震はない」ということを教えてくれました。我々は想定を超える、あるいは不測の事態への対応要領も検討し、機に応じてそれが実践できるような能力を養っておくことが必要だと思います。

 次回は、東日本大震災の特徴の2番目「地震、津波、原子力の複合災害となったこと」をテーマに考えてみたいと思います。