危機管理業務部 部長
 山本 忠雄

※「東日本大震災の特徴から防災体制の整備を考える(その2)」のつづき。
 「その2」は、2011年8月29日付の記事を参照ください。



 私が東日本大震災の特徴の2番目に挙げたのは、「地震、津波、原子力の複合災害となったこと」でした。(平成23年5月9日、「東日本大震災への対応から訓練のあり方を考える」
 今回は、複合災害というものそしてこれにどのように備えるべきかということについて考えてみます。

 繰り返しになりますが、3月11日の大地震と大津波、それに伴う原発の事故の後で盛んに使われたのが「想定外」という言葉でした。
 考えてみますと、我々はこの「想定外」という言葉を無意識のうちに2つの意味で使っているかも知れません。それは、地震、津波が予想をしていたよりも大きなものであったということと、それによって原子力発電所の事故やコンビナートの火災、更には首都圏での鉄道運休や電話の不通に起因する帰宅困難者の発生などが引き起こされたことなどです。
 この大震災の連鎖について考えてみますと、マグニチュード9.0の大地震により、家屋の倒壊や崖崩れ、液状化や地盤沈下、停電、水道・下水道・ガス施設の損壊、電話の不通、コンビナート等の火災などの被害の他、大津波が引き起こされました。この大津波は、2万人近い人の命を奪い、港湾や家屋等の破壊、船舶や養殖施設の流出、農地の耕作不能の被害、膨大な量の瓦礫、更に、福島原子力発電所の事故も発生させました。
自衛隊による遺体搬送
< 大津波によって壊滅した被災地で遺体を搬送する自衛隊員 >

 大地震と大津波によって建物、特に市町村庁舎、学校、病院などの公共施設及びライフラインや道路・鉄道などの施設が破壊され、救出・救助、医療救護や被災民の生活支援の活動に大きな支障となるとともに、製造業の操業停止や道路・鉄道による流通機能をマヒさせ、東北地方だけでなく、我が国や外国の経済活動にも大きな影響を与えました。また、この大地震は、先ほど述べたように震源から約300キロも離れた首都圏にも停電、電話の不通、鉄道の運休などを引き起こし、約300万人とも言われる帰宅困難者を発生させるとともに、液状化被害とコンビナートの火災をも引き起こしました。

 地震防災対策の前提になっている被害想定は、予想される震度や津波の高さによって発生すると考えられる、人、建物、道路、港湾やライフラインなどの被害数や火災発生件数などを無機質に列記しています。私にはそれこそが我々が災害の様相というものを正しくイメージすることを阻害する一つの要因になっているのではないかと思われるのです。大きな地震動があれば津波が引き起こされ、それに伴っていろいろな被害が同時に発生する、首長や職員も死亡する。考えてみるまでもなくこれは当然のことであり、想定外でも何でもありません。そしてまた、国や自治体、防災関係機関、事業所、住民などが挙ってそれらに対応していかなければならないことも当たり前のことです。
 しかしながら、防災基本計画が災害応急対策について項目ごとに記述され、これに基づく地域防災計画もそのようになっていることもあり、政府や自治体の災害対応の図上訓練などにおいても被害様相を全体的な視点で捉えることをせず、局地的な災害個々への対応が主体で、災害・事故が複合して発生した場合の総合的な対応要領は検討されていません。しかも、大規模な新幹線などの鉄道事故や市街地・コンビナート火災への対応、孤立地域への救援や港湾の復旧などを具体的にどのようにするのかということもほとんど検討されていないと言っても過言ではありません。
 突発的に発生する災害―同時多発する過酷な事態に、機を失せず的確に対応するためには、平素から予想される事態にどのように対応するか、更にはそれらが複合して発生した場合の対応要領を検討して、それをまとめた災害対応計画なるものを策定し、訓練などにより本部要員や関係機関等との認識の統一を図っておかなくてはなりません。それが今後の防災体制の整備に係る2つ目の貴重な教訓であると思っています。

 次回は、東日本大震災の特徴の3つ目、「職員や施設の被害及びライフラインの障害等により被災自治体の行政機能が不全に陥ったこと」をテーマに考えることにします。