危機管理業務部 部長
山本 忠雄
※「東日本大震災の特徴から防災体制の整備を考える(その3)」のつづき。
「その3」は、2011年9月12日付の記事を参照ください。
私が東日本大震災の特徴の3番目に挙げたのは、「職員や施設の被害及びライフラインの障害等により被災自治体の行政機能が不全に陥ったこと」でした。(平成23年5月9日、「東日本大震災への対応から訓練のあり方を考える」)
今回は、自治体が被災して行政機能が発揮できなくなったこと、そして、これにどのように備えるべきかということについて考えてみます。
3月11日の大地震とそれに伴う大津波により、岩手県と宮城県の多くの市町村が庁舎に被害を受け、首長を含む職員が被災して避難勧告・指示、避難誘導や救出・救助、避難者の収容・支援などの地震発生直後の災害対応はもちろん、それに続く応急復旧や避難者の生活再建、そして、復興などに係る業務が著しく制約されています。これもまた一つの「想定外」だったと言えるのではないかと思います。
今回の震災、特に大津波により主なものだけでも岩手県では宮古、釜石、陸前高田の3市、山田、大槌、住田の3町と野田村、宮城県では気仙沼、石巻の2市と南三陸、女川の2町など11市町村の庁舎が大きな被害を受けました。また、職員についても、大槌町の町長以下30数人をはじめ、他の市町村でも多くの職員が死亡又は行方不明になりました。更には、消防や警察も大きな被害を受け、正に災害対応の拠点となる施設、要員がその役割を果たすことができない事態となってしまいました。福島県では地震や津波に加えて原発災害を受け、8つの市町村役場が住民とともに県内外に避難するという状況になっています。これに加えて停電や電話の不通などで市町村内はもちろん、県と市町村との連絡が取れず、被害状況の把握などができない状態が長く続いたようでした。
< 津波により骨組みだけになった宮城県南三陸町の防災対策庁舎 >
これに対して、政府は被災自治体に対する職員の派遣を政府機関や自治体に要請し、国家公務員は平成23年9月26日時点で延べ約5万8千人、自治体職員も7月1日現在で、延べ5万人の支援が行われており、今後も少なくとも1〜2年間は多くの支援が必要であると考えられます。
津波で庁舎が流され、町長や多くの幹部職員が被災してしまった大槌町のような例については事前の手の打ちようがないような気がしますが、自治体が「住民の生命と財産を守る」という責務を果たすためには、そのような困難な中にあっても職員が何とか生き残り、最大限の災害対応の機能を発揮できるような対策を考えておかなければなりません。
防災施設、職員の被災を想定した対応策(BCP)の検討
阪神・淡路大震災でも多くの神戸市などの庁舎が被害を受けるとともに職員や家族が被災して災害対策本部の活動に大きな支障が出ました。また、新潟県中越地震でも長岡市は庁舎が使えず、屋外にテントを張って対応するというようなことがありました。
そのようなこともあって、内閣府(防災担当)は平成22年4月に「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説第1版【手引き】」を策定し、地震発生後の時間の推移に応じて執るべき業務を例示するとともに、「庁舎が利用困難となることが想定される場合には、代替施設の検討を行っておくことが重要であるが、実際に代替施設への移転が迅速に決定・実施されるためには、あらかじめ、移転の判断や代替施設の決定手続き、移転手段の確保に必要な手順等について決めておくことが望まれる」などと、被災した場合の対応を決めておく、すなわち、業務継続計画(BCP)を策定することを求めています。
各自治体では更に早くからBCPを策定し、その検証のための訓練などを実施しているところもあります。しかし、そのBCP自体も必ずしも十分に厳しい状況を想定したものではなく、災害時優先業務と時期的目標を明らかにしたという程度のもので、職員への周知・徹底がなされていないことと相まって、実行性はかなり疑わしいと思われるところがあります。
確かに東日本大震災での東北のように自治体の庁舎がなくなってしまうということは他の多くの自治体では考えにくいことかもしれません。しかしながら、例えば、首都圏の自治体では多くの職員が遠隔地に住んでいることから、参集するのに時間がかかるというような特性があります(このことは、3月11日に大きな被害が出ていないにもかかわらず多くの帰宅困難者が発生した状況の逆を考えれば理解が容易だと思います)。
したがって、庁舎や職員の被災、通信の途絶等についてもっともっとシビアな想定をし、2重3重の対応策を検討しておくことが必要だと考えます。
被災市町村本部支援計画の策定
今述べたBCPの策定と同時に、災害対応の機能がマヒした自治体に対する支援体制を構築しておくことも極めて重要です。
これは次回に述べる教訓(テーマ)である広域応援にも係ることでもありますが、ここで取り上げたいのは、都道府県による被災市町村への支援体制のことです。
静岡県では、防災局の中に、災害発生時に円滑な機能を発揮できなくなった市町村の災害対策本部活動などを支援する任務を有する、緊急防災支援室という組織を持っていましたが、平成17年4月にその室を解体しその要員と機能を、新設した地域防災局に移しました。したがって、決して十分ではないにしても市町村を支援する体制はできています。
他の自治体はどうでしょうか?また、今回の東北3県の被災自治体への事前の支援体制と実際の支援活動はできていたのでしょうか?
災害対策基本法は、災害対応は基本的に市町村長の責務とし、都道府県の地域防災計画でも市町村が機能しなくなることを想定しているとは言えませんから、災害対策本部に職員を派遣して支援をする計画などはなかったと思います。また、多くの都道府県は地域をいくつかに分け地方振興局のような出先の組織を持ってはいるものの災害時における市町村支援の任務が明確になってはいないようですし、毎年の防災訓練等も市町村と連携して災害対応をとるようなものはしていないというのが実態だと思います。
確かに岩手県の遠野市などは庁舎が全壊したにも拘らず市長のリーダーシップによりいち早く被災自治体の支援に乗り出したようですが、失礼ながら、県をはじめ多くの市町村は被災市町村への支援体制の構築は遅れ気味だったのではないかと推測しています。ある県の防災担当者から聞いた話では、今回の災害対応でも県の職員の多くは市町村への支援の意識が薄く、「それは市町村がやるべきことだ」と言って派遣されるのを嫌うということがあったそうです。これらのことを考えると、都道府県は市町村の災害対策本部が十分な機能を果たせなくなった場合の支援体制を、都道府県職員の派遣はもちろん、被災していない市町村からの支援を含めてもっと具体的に計画し、市町村と共有し、かつ、日頃から訓練などで連携を確認しておくというようなことが必要ではないかと思います。
また、非常災害時の国、都道府県、市町村の役割分担、災害対応に係る連絡・調整や支援のあり方についても具体的に検討、取り決めをしておく必要があるのではないかと考えています。
次回は、東日本大震災の特徴の4つ目、「警察、消防、自衛隊、海上保安庁、医療などの応援部隊のみならず、全国の自治体職員、ライフライン関係事業者、海外からの支援などが大規模に実施されていること」をテーマに考えることにします。