危機管理業務部長
山本 忠雄
※「東日本大震災の特徴から防災体制の整備を考える(その4)」のつづき。
「その4」は、2011年10月11日付の記事を参照ください。
(毎回同じ書き出しで恐縮ですが、)私が東日本大震災の特徴の4番目に挙げたのは、「警察、消防、自衛隊、海上保安庁、医療などの応援部隊のみならず、全国の自治体職員、ライフライン関係事業者、海外からの支援などが大規模に実施されていること」でした。(平成23年5月9日、「東日本大震災への対応から訓練のあり方を考える」)
今回は、大地震等により大きな被害が発生し、国内外からの大規模な支援が行われる場合にこれを円滑に受入れ、効果的に活用するための備えということについて考えてみます。
多くの自治体の地域防災計画や災害対応に係るマニュアルには、大規模災害が発生した場合に自衛隊や消防に応援要請をすること、相互応援協定に基づき他の自治体から職員や物資等の支援を受けることを定めています。そして、本部運営の図上訓練などではそれぞれの分掌にしたがって各機関等への応援要請の行為をし、あるいはしたことにしています。それ以上に進んで応援を円滑に受けるための計画を作成したり、訓練の中で措置すべきことを検討したりすることはなされていなかったというのが多くの自治体の現状だと思います。
静岡県では、平成17年4月に「東海地震応急対策活動要領に基づく静岡県広域受援計画」というものを策定しました。これは、政府が平成16年6月の中央防災会議幹事会の申し合わせとして、「海地震応急対策活動要領に基づく具体的な活動内容に係る計画」(以下、「国の応援計画」という。)を策定し、東海地震が発生した場合の各被災都県に投入する救助、消火、医療の活動に従事する警察、消防、自衛隊、災害派遣医療チーム(DMAT)などの部隊や物資や輸送活動などの応援量を示しました。県ではこの国の応援計画に対応し、「速やかに国の応援を受け入れ、効率的・効果的な地震防災応急対策及び災害応急対策を実施する」ための計画を策定したのです。以来、総合防災訓練や大規模図上演習などの場で、この計画の実行性を検証し高めるための努力が続けられています。
警察の広域緊急援助隊や緊急消防援助隊、DMATが創設され、全国の都道府県による相互応援協定が結ばれたのは阪神・淡路大震災の教訓からでした。更に国は、平成15年以降、東海、東南海・南海、首都直下、日本海溝・千島海溝周辺海溝型、中部圏・近畿圏直下の、近い将来発生が予想される巨大地震に係る被害想定、対策大綱、応急対策活動要領、そして、同要領に基づく具体的な活動内容に係る計画などをそれぞれ策定しています。国の広域応援体制が格段に整備されたのは、阪神・淡路大震災がきっかけだったと言えると思います。ちなみに広域応援部隊等の創設の成果は、その後の新潟県中越地震やJR西日本福知山線列車事故、能登半島沖地震、岩手・宮城内陸地震、そして今回の大震災での活動で明白になっています。
政府(内閣府防災担当)はまた、昨年度「地方公共団体における受援計画の策定等に関する検討」という事業を実施しました。これは、東海地震や首都直下地震等の発生時には国が策定した「応急対策活動要領」等に基づいて国の関係機関から被災地方公共団体(自治体)に対して様々な支援を行うこととされていますが、自治体においては国からの支援を受ける体制が必ずしも十分ではなく、大規模災害発生初期の緊要な時期に無用な混乱と活動の停滞を招き、支援を円滑に受けられないことが懸念されるので、自治体に対して受援計画の策定を働きかけようというものでした。
この事業には弊社もお手伝いをしましたが、報告書の中で結論的に盛り込まれたのは、自治体は執るべき災害応急対策のほとんどすべての面において受援体制を整備しておかなければならないということでした。すなわち、救助、消火、医療、物資、輸送、ライフラインの復旧などの活動やボランティア、海外からの支援などについて、国内外からの応援を円滑に受入れ、効果的に活動・配分するための組織・役割分担、調整会議、活動の支援要領、平素の準備などに関して具体的に計画し、いざという時に運用できるよう平素から点検しておかなければならないとされたのです。
冒頭、私も携わった静岡県の受援計画のことを紹介しましたが、それは警察、消防、自衛隊、海上保安庁の部隊やDMAT、物資や交通・輸送のことだけですから、当時の状況からはやむを得なかったとしても、総合的な受援体制の整備という観点からすれば不十分なものであったと反省しております。
静岡県防災局に居る時に、外国からの応援部隊の受け入れについて話題にしたことがあります。その時の幹部の発言は「外国とのことは政府がやることだから任せておけばよい」とのことでした。しかしながら、外国から応援部隊の派遣の申し出があった場合には政府本部(外務省)→都道府県→市町村と応援を受けるかどうかの打診がありますし、受け入れる場合には、受け入れる時期、場所、活動調整のやり方、宿泊や給食支援体制などについて具体的に検討する必要があります。政府内では阪神・淡路大震災の後に海外からの支援の受け入れについての申し合わせがなされ、図上訓練の中でも検証されていますが、自治体の地域防災計画の中では自分達が具体的に何をしなければならないかということが強く意識されてはいないようです。この海外からの支援受けについても住民の生命にかかわる話ですから政府任せで良い訳はありません。
また、電気、電話などのライフライン施設の復旧についても関係事業者等の全国的な応援がなされますが、これも自治体の災害応急対策の推進に大きな影響を及ぼすものですから、事業者任せにはできません。応急復旧場所の優先順位や資材置き場の確保などの活動支援についても、平素から検討されていなければなりません。
今回の震災でも自衛隊が10万人以上の体制で救援活動をしたのをはじめ、警察、消防、海上保安庁、DMAT等多くの応援部隊が投入され、先回も述べたように延べ10万人を超える国家公務員や自治体職員、多くのライフライン関係者やボランティア、そして米軍のトモダチ作戦をはじめ28の国・地域・機関から救助隊・専門家チーム等が派遣されました(「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について」、平成23年10月4日(17:00)、緊急災害対策本部)。
< 岩手県山田町の町民総合運動公園内にある自衛隊宿営地 >
海外からの支援受けを含め、国や非被災自治体の応援、あるいは被災自治体の応援の受け入れが円滑かつ効果的に行われたのかということについては、今後大いに検証されなくてはならないと思います。しかし、今の段階で間違いなく言えるのは、各自治体ともに大規模災害が発生した場合には、警察、消防、自衛隊、海上保安庁、医療などの応援部隊のみならず、全国の自治体職員、ライフライン関係事業者、海外からの支援などが大規模に実施されるということを前提とした計画、すなわち、広域受援計画をできるだけ具体的に策定し、自己の職員はもちろん、要すれば応援をする警察、消防、自衛隊等の部隊や他自治体等との図上訓練などにより認識を統一しておくことが必要ではないか、ということです。
また、今回、岩手、宮城、福島の各県の災害対策本部にあって、県庁内部はもちろん、自衛隊、警察、消防などの活動調整をはじめ、政府との応援調整などに力を発揮したのは、自衛隊を退職して防災・危機管理部局に勤務している人達でした。このような人材を獲得し、活用できるようにしておくこともまた受援体制整備の重要な要件であることを付け加えておきたいと思います。
次回は、東日本大震災の特徴の5つ目、「被災地からの住民避難が全国的な広がりで実施されていること」をテーマに考えることにします。