危機管理業務部 部長
山本 忠雄
自治体(行政)が災害対応を適時適切に行うためには、「想像力」と「構想力」が必要であると思う。
想像力とは、どのようなことが起こるか、すなわち、どの程度の被害が発生し、住民の生活や社会全体の状況がどのようになり、住民の生命、財産の保護に任ずる行政としてどのような活動が求められるようになるかということを考える=イメージする力のことである。たとえば、地震による災害であれば、どの程度の震度で、どの程度の人的被害や建物の倒壊、火災、道路や橋などの損壊、電気、電話、ガス、水道、鉄道などのライフラインの停止などの被害が発生し、消火、行方不明者の捜索・救助、負傷者の救護、避難住民の支援、交通路の確保などの所要がどの程度になるかということを考える=想定する能力である。
一方、構想力とは、想定された事態に行政としてどのように対応するかということを考える力のことであり、持てる人的・物的資源をどのように投入し、いかに被害を最小限に食い止め、少しでも早く復旧させるかという方策を立てる=立案能力のことである。
この2つの能力がなければ、平素からの防災体制の整備が不十分になり、かつ、いざという時の対応が的確にならないことになる。なぜならば、下の表のように、平素の防災体制の整備のためには、備えるべき災害の規模や社会の状況等を想像し、それへの対応策を組み立てることが必要であり、また、災害発生時においては、限られた情報の中で想定した被害の範囲内であるかどうか、あるいはどのような被害が発生しそうか(していそうか)ということを予想し、執るべき対応策を考え、実行していかなくてはならないからである。
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東日本大震災では、考えてもいなかった広域の震源域で断層がずれて大地震と大津波が発生し、なおかつ福島第一発電所の事故が引き起こされたことから、「想定外」という言葉が流行語になるほど盛んに使われた。
「想定は」人間が都合に合わせて考えたもので、自然災害には「想定」というものはない、という原則に従えば、「想定外」ということも「想像力」と「構想力」の不足がもたらしたものであると言えるかもしれない。人間は、特に、我々日本人は、想定したこと以外は起きないことにしようと事の重大性に目をつぶり、考えないことにしようと発生した場合の対策に想いを致さないという悪しき性向がある。
自治体は、「住民の生命、身体、財産を守る」という重大かつ崇高な責務を有しており、それはとりもなおさず自治体の首長や職員が担うべきものである。
現在、地震のみならず、「記録的」「過去に経験したことのない」というような大雨などにより、各地で大きな被害が発生している。危機管理の要諦は、「先憂後楽」、「予期をもって不意を避ける」である。自治体職員には、そのための想像力と構想力が強く求められている。