危機管理業務部 主任研究員
 松並 栄治

 小学生の頃の夏休みは、朝6時には起床して近所の神社の境内に行き、ラジオ体操に参加して、出席カードに印鑑をもらい、皆勤賞でノート等をもらっていました。
 そのおかげで、この年齢になってもラジオ体操第1はあの音楽が流れると同時に体が動き出すといったように、体が習性化されています。
 いろいろな対処行動においても、「訓練でできないものは、本番ではできない」と言われるように、反復訓練により習性化されてはじめて過酷な本番において実行できるようになるものです。

 最近、日本においても実施されている防災訓練の1つで、「ShakeOut(シェイクアウト)訓練」というものがあります。
 あまり耳慣れない訓練ではありますが、徐々に参加者が増加していることから、将来的にはラジオ体操のように、防災の日の定刻に日本中で「Drop」「Cover」「Hold on」という動作が実施される日が来るのではないかと期待されています。

 「ShakeOut訓練」とは、2008年、アメリカの防災関係者らの発案でスタートしたアメリカ最大の防災訓練です。
 2011年10月20日に、アメリカのカリフォルニア州全域とオレゴン州、ネバダ州などで行われた「The Great California ShakeOut」には、過去最高となる計950万人が参加しました。
 ちなみに、日本では、9月1日の「防災の日」を中心として防災週間が設定されておりますが、その参加者総数は約200万人であることから、「The Great California ShakeOut」はその約5倍に相当します。

 ShakeOut訓練の特徴は、様々な人たちが様々な場所で、最新の地震研究データによる災害シナリオに基づき、同時に訓練を行う点にあります。
 「The Great California ShakeOut」では、お店や学校、オフィスビル等で同時に訓練が行われました。このうち、主な会場となったロサンゼルスのスーパーマーケットでは、揺れがあったという想定で、店内にいる店員と客が一斉に身を屈めるという訓練が行われました。
 ShakeOut訓練の参加者は、地震災害発生時に、とても重要かつシンプルな「安全行動の1−2−3」をとります。
 アメリカの訓練において、この行動は「Drop(姿勢を低く!)Cover(体・頭を守って!)Hold on(揺れが収まるまでじっとして!)」と呼ばれ、小さな子供から大人まで誰でもできる基本的な安全行動として知られています。
02_安全行動の1-2-3
「The Great Japan ShakeOut」パンフレットより

 そして、「安全行動の1−2−3」の後には、地震が発生した際に自分を襲う凶器となる物(壊れる物、倒れる物、落ちてくる物など)を点検し、身の回りの不安全状態を除去します。

 この訓練は、日本においても千代田区、北海道、千葉等で実施され、その他の都市でも予定されていますが、これを全国に広めていくことが減災に繋がると思われます。
 さらに、地震による死傷者を減少させるため、日本版「ShakeOut」では、揺れが起こった際の行動である「Drop、Cover、Hold on」のみでなく、地震に伴い発生する火災津波に対する「安全行動の1−2−3」、例えば、津波で言えば、「車は鍵をつけたまま下車」「近くより高く」「川の流れに対し直角に」など、避難の合言葉のようなものが必要だと思います。

 そして、「安全行動の1−2−3」の後、家庭・職場の点検、不安全状態の除去等を実施し、その後、小学校や公民館、近所の神社やお寺といった場所に、生徒・学生、親、学校等が災害時に避難所となっている人々等、地域のコミュニティを形成する人々が集合し、避難経路の点検・不安全状態の除去避難所訓練救急救命法地域災害史の研修等といった防災教育を実施すれば、国民の防災意識・能力が向上するのではないでしょうか。
 特に、小学生・中学生のような若者たちが「自分の身を守り、周りの人を助ける」といった自助・共助の精神を身につけ、災害対応能力を向上させることにより、ラジオ体操の音楽が流れると同時に体が動き出すように、緊急地震速報や揺れを感じた際に即座に習性化された防災行動をとれるような大人に成長できるのではないかと思います。ひいては、そのような若者たちに対する教育が、将来の防災リーダーやボランティア組織のリーダー等の育成・能力向上に繋がるものと思います。
 そのような若者たちが、将来の仕事として自治体等の防災担当職員になり、その力を如何なく発揮するとともに、自らの経験等を後世に伝え、地域の防災力の向上に寄与してくれる日が来てくれることを願ってやみません。