危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

※「避難所の開設・運営等に係る重要事項について考える(その1)」のつづき。
 「その1」は、2012年9月24日付の記事を参照ください。



 今回は、「避難所の開設」についてです。

1 避難所の開設
 避難所を開設するために、まず必要なことは何でしょうか?それは、施設の安全点検です。
 避難所となる学校施設は、児童生徒等の学習・生活の場であるとともに、非常災害時には地域住民の応急避難場所としての役割も果たすことから、その安全性の確保は極めて重要であるとの認識のもと、現在、全国の学校において施設の耐震化等が進められています。
 このような現状を鑑みれば、避難所となる学校施設そのものが地震による揺れで倒壊して使用できなくなるというリスクは、従来に比べて大幅に減少していると言えます。

 【公立学校施設の耐震化の現状】
 ●耐震化率:84.8%(前年度80.3%)
  ・耐震化率が100%を達成している設置者:750設置者(全体の42.1%)
  ・耐震化率がいまだ50%未満の設置者:65設置者(全体の3.7%)
 ●耐震性がない建物(耐震診断未実施の建物含む):18,508棟(前年度22,911棟)
 ●耐震診断実施率:99.0%(前年度98.8%)
 文部科学省では、平成23年5月24日に「施設整備基本方針」を改正し、公立学校施設の耐震化について、平成27年度末までのできるだけ早い時期に完了させるという目標を打ち出しています。

 しかし、東日本大震災など近年発生した大規模な地震では、いわゆる「非構造部材の被害が発生し、避難所として使用できなかった事例などが報告されています
 「非構造部材」とは、天井材、外壁(外装材)、内壁(内装材)、照明器具、窓・ガラス、設備機器、収納棚(書棚)などのことで、これらの被害は、構造体に被害が軽微な場合も生じる可能性があり、文部科学省の調査では、建物(構造体)自体の耐震化工事の進捗に比べて、これらの耐震対策は更に遅れをとっているのが現状です。
 そのため、このような現状も踏まえ、避難所を開設するにあたっては、天井材や照明器具が落下していないか(落下するおそれはないか)、外壁や内壁が崩れていないか(崩れるおそれはないか)、窓が割れてガラスが散乱していないか(割れるおそれはないか)、書棚等が倒れていないか(倒れるおそれはないか)など、施設の安全な使用及び機能の維持・発揮という観点から、施設の安全点検を行うことが非常に大切となります。
学校5
< 近年の大規模地震では、避難所で天井材の落下等「非構造部材」の被害が発生 >

2 避難所の開設にあたり事前に確認・決定しておくべき事項
 避難所の開設にあたって事前に確認・決定しておくべき事項についてまとめます。

(1)避難所となる施設の鍵の保管者及び開錠者
 「避難所となる施設の鍵は誰が保管しているのか」、また、「いざという時に誰が開けることになっているのか」を確認しておく必要があります。
 一般的には、鍵の保管者及び開錠者は、施設管理者(学校)や施設の鍵を所持する自治体職員であることが多いです。

(2)避難所の応急危険度判定の実施主体
 先に記載したとおり、避難所を開設するためにはまず施設の安全点検が必要であることから、「避難所の応急危険度判定は誰がやるのか」を確認・決定しておくことも重要です。
 一般的には、施設を開放した者(施設管理者や自治体職員等)であることが多いですが、その際、専門的な知識や技術を有する者(例えば、自治体の建築部門の担当者や応急危険度判定士など)であれば別ですが、自己判断で危険度を判定するのは困難であるため、事前にチェックリスト等を作成しておき、それに基づいて諸所を確認するといった準備も必要かと思われます。
 また、危険と思われる箇所には避難住民を誘導しないことは勿論、「立入禁止」の表示等により、避難住民に予め危険箇所を周知するといった配慮も大切です。

(3)避難所の開設主体
 「避難所の開設は誰がやるのか」を確認しておくことも重要です。これについても、一般的には、施設管理者や自治体職員等であることが多いです。
 しかし、ここで重要なことは、避難所の開設自体は施設管理者や自治体職員等が行うとしても、そこから先の「避難所の運営」については、原則として避難者の自主的な自治組織で運営を行う、つまり避難者自身が行うということです。
 「避難所まで行けば後は自治体が何とかしてくれる」、「食事や物資には困らないだろう」などといった考え(甘え)は大きな間違いです。残念なことに、訓練等に参加されている住民の中には、未だそういった「お客様気分」でいる方が少なからずいらっしゃるのが現状です。
 勿論、自治体は避難所に対して出来る限りの対応に努めます。しかし、自治体も被災者になります。施設も職員も被災し、その機能を発揮するまでには時間がかかってしまいます。また、対応すべき事も山積みで、すぐに全ての要請には応えられません。
 ですから、避難所の運営については、自治体の避難所支援組織(職員)やボランティア等と協力・連携しながら、「地域のことは地域住民の手で」という心構えを持つことが最も大切です。

 次回は、「避難所に必要な施設」について考えていきます。