危機管理業務部 主任研究員
 菊池 政己

 私は、平成21年8月に自衛隊を定年退職し、某自治体の危機管理室参事として勤務することになりました。
 私に与えられた任務の一つに、職員に対する研修(教育)の企画及び実施業務がありました。具体的には、私が自衛官時代に学んだ知識やノウハウ、経験した事項等を生かし、職員に対して、危機時の心構えや対応行動などに関する教育訓練等を行うことです。
 今まで自分が歩んできた文化や伝統とは異なる世界での勤務でしたので、当初はじっくり職員の皆さんの勤務状況や室内の雰囲気などを感じながら、挨拶からはじめ、会話をしたり、懇親会(私より職員の皆さんに気を使っていただいたのが実際ですが)を通じて関係を深めていきました。
 職員の皆さんは何事にも積極的ですし、極めて優秀な方々が揃っていると感じました。そのような中、私はまず現状認識から始めることにしました(今回は、危機管理室職員訓練に限定して記載します)。

1 現状の認識
(1)危機管理室職員の特性
 ■危機管理を専門に教育を受けている職員はいない。
  室には他部局同様、多種多様な勤務歴の職員が配置されている。
 ■室勤務職員も2〜3年で交代する(1年度で約30〜40%が交代)
  よって、以下の状況にあると考えました。
 〇恒常的業務は適切に処理するが、危機時の対応行動には職員の能力に差がある。
 〇決められたことや指示された任務の範囲の中で最大限能力を発揮する。
  また、組織(チーム)の力より個人の力に頼りがちである。
 〇業務や訓練等を通じて危機対応能力を養った職員が室内に残っていかない。


(2)組織(危機管理室)の特性
 ■業務は、恒常業務に加え危機事象や事故発生に対応するため、非常に忙しい。
  よって、以下の状況にあると考えました。
 〇忙しい業務の中で職員が危機に対応する機会は部署によって差が大きい。
 〇その体験した成果物の積み上げが継続されないし、共有されない。


2 危機時に対応するには何が必要か
 私が自衛官として勤務した期間の大部分は、教育訓練関連です。そのうち、今でも忘れませんが、危機時の基本と考えているのは、幹部及び部隊レンジャー教官時代に学んだことです。
 それは、
,いなる状況下でも基礎的事項を確実に実行できること
▲蝓璽澄璽轡奪廚肇繊璽爛錙璽の発揮

 の2点です。
 危機時の混乱した状況の中、難しく、複雑なことはできません。また、訓練で習慣化していないことは、当然危機時にもできません。一人より二人、チームとして活動することがより確実です。
 そのため、室職員には、「基礎的事項(簡単なこと)を確実に実行できること」、「前向きに自分から進んで行動すること」を目標として教育訓練を行うこととしました。
チームワーク
3 月1回の継続した危機管理室訓練
(1)目的・ねらい
 ア 危機事象が起こったら自ら即反応(行動)する意識を持たせる。
 イ 難しいことより簡単な基礎的事項を確実に行うことができるようにする。
 ウ 負担に感じないよう、軽易かつ短時間の訓練にする。


(2)平成22年度の訓練要領
 私が勤務した某自治体では、平成22年度に、隣接の他自治体と連携した合同地震・津波災害対策訓練(1月17日、図上・実動連動訓練、首長以下約4,000名参加)を総合訓練(最終目標)として、職員の研修と担当GP訓練(マニュアル習熟)(4月〜7月)、班の機能別訓練(8月〜10月)、災害対策本部事務局としての応用訓練(11月、12月)を継続的・計画的に行いました。
 訓練は、各自が何をするか(任務の理解)から、GPとして、あるいは班としていかに機能的に業務を行うか(手順)、事務局として班をどのように総合的に業務を進めるか(業務予定・総合調整要領)など、基礎的な活動要領を訓練する機会とし、課長以下(当時約80名)の参加による短時間(約2時間)訓練としました。
 訓練参加者をできる限り多くするため、年度計画や実施日の事前周知及び参加者の事前掌握などを行いました。出張や会議、議会対応あるいは住民への許可申請業務などで不参加者はいるものの、回を追うごとに、訓練を意識する職員、訓練に参加することを優先的にして業務を計画する部署や率先して訓練に参加する課長など、訓練への意識は確実に高まっていきました。中でも中心となる課長補佐クラスのリーダーシップと協力は不可欠でした。

4 継続は力なり
 最終目標とした1月17日の訓練は、当然ブラインド訓練です。
 発災当初の迅速な事務局立ち上げは勿論のこと、災害対策本部会議での対処方針の決定、自治体間の連携した災害応急対処及び救出・救助活動などのオペレーションが、概ね首長や危機管理監の意図する範囲で推移できました。
 職員の前向きかつ積極的な姿勢とともに、情報資料の収集・整理、記録・表示や情報の報告・通報あるいは関係機関連絡員との打ち合わせなどの基礎的事項をしっかり行うことができた結果であり、また継続的して行った室訓練の成果と言えます。
 今後も職員に対してこの種の訓練を継続して行い、基礎的行動を習慣化していくことが、いざ災害が発生した場合(危機時)に大きな力になるということを確信した訓練でした。