危機管理業務部 副部長
 大地 教文

 文明の発達に伴って、世の中はどんどん便利になっています。
 江戸時代の乗り物のスピードは、最も速い「馬」でもその速度は40km/h程度(現代の競走馬で60〜70km/h)、普通は、自分の足で歩いて移動をしていたと思います。
 現代では、飛行機、新幹線・鉄道、高速船など、移動のための手段も多様化・高速化し、そのスピードが全く違います。大型旅客機が約900km/h、超伝導磁気浮上式リニアモーターカーが580km/h、新幹線やレーシングカーは300km/hで走ります。乗用車が高速道路などで普通に走っても100km/hのスピードで移動します。
航空機
 この文明の発達に伴う便利さと同時に、危険度も高くなっています。高速道路でのバス運転手の居眠り事故や、福知山線の列車事故、御巣鷹山航空機墜落事故などにより多くの乗客乗員が犠牲になるとともに、毎年交通事故により死亡する人が約5千人も発生しています。ある意味、便利さの代償として事故等のリスクを併せ持っていると言えます。

 私も、新幹線や飛行機によく乗りますが、たいていは本を読んだり眠りながら移動をしています。でも時々、「今、もし事故が起きたら…」とその状況をイメージし、自分の執るべき行動について考えることがあります。これらの交通機関では、事故が起きないよう様々な安全上の対策をとっていることと信頼してはいますが、誰かが意図的に危険な状態を生起させたらと考えれば、安全のための対策はあまり防止効果はなく、便利な乗り物が凶器になって自分に襲いかかってきます。すなわち、事故(事件)は必ず起きるものといえ、いつ、どこで、どのような形で起きるかがわからないだけです。このような犯罪・テロ行為は発生を未然に防止することが重要ですが、起きた場合に被害を局限することも大切です。

 このため、自治体や関係機関の防災・危機管理に係る業務に従事している者は、考えられる各種の事態への対応について、可能な限り平素から対応計画などを作成して訓練し「想定外」をできる限り少なくすることが必要です。もちろん、地域防災計画において大規模事故の発生を想定し、応急対応計画を策定している自治体が多いと思いますが、より具体的・実際的な計画策定や訓練実施が望ましいのは当然です。
 また、事業者も同じように、万一の事態への備えをしておくことが必要ですが、往々にして乗客などに不安感を抱かれることを心配し、そのようなことが起きないと自らが信じ込むことのないようにしていただきたいものです。

 より便利なもの、進んだものほど事故時の被害は大きいものです。原発などはその最たるもので、大きなエネルギーを持っているからこそ有益であり、また事故時の影響も大きくなります。関わる全ての人が、万一の場合のイメージを共有するとともに、事故等の発生を抑止し、発生時の被害を局限するという危機管理の努力を実践することによってはじめて、本当の意味で文明の恩恵を多くの人が享受することができるのだと思います。