危機管理業務部 主任研究員
松並 栄治
前回は、「災害エスノグラフィーの聞取り調査」について、時間の経過とともに失われていく過去の災害の記録を形式知化し、災害対応の経験知として蓄積するとともに、教訓として活用するためには、災害エスノグラフィーは有効な手段であり、心の奥にしまっていた過酷な災害対応経験を吐き出させるためには、カウンセリング技法が必要であると記述しました。
今回は、その災害対応の経験知の蓄積体制、教訓としての活用要領について記述したいと思います。
まず、災害対応経験知の蓄積の体制ですが、過酷な災害対応経験を吐き出させるためには、災害対応に詳しいインタビューアーを増やして時間の経過とともに失われていく前に過去の災害対応の経験知を有する人々から聞き出し、データ化する必要があります。
その際、インタビューアーとインタビュー対象者は、同じ言葉(方言)を使い、当該地域の地域性を共有していることが望ましいと思われ、災害エスノグラフィーの研究の体制としては、各県にある国立大学において研究体制を確立し、その国立大学において、その地域の災害や災害対応に詳しく、その地域の方言を使うインタビューアーを養成することが望ましいと言えます。
各県においてインタビューアーがインタビュー対象者から聞き出し、データ化(話言葉を文字起こし)された災害対応の経験知は、地区毎(ここでは、北海道地区、東北地区、関東地区、中部地区、九州地区の5コ地区に区分)に配置された地区災害情報データバンク(仮称)に蓄積するとともに、全国のデータを中央災害情報データバンクに蓄積する体制を構築することが必要です。
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次に、教訓としての活用要領ですが、蓄積したその地域のデータは、各地方公共団体の地域防災計画等に過去の教訓として反映させるとともに、地区災害情報データバンクや中央災害情報データバンクに蓄積されたデータの内、気象・地形が近似した他地域のデータを貴重な教訓として地域防災計画等に反映させることが必要です。
また、計画等に反映させるのみでなく、災害対応能力を向上させるための訓練を計画する上でも、訓練シナリオや被害想定を作成する際に他地域のデータを参考資料として活用できます。
さらに、実際に災害が発生した際に、自分で経験したことがない災害対応のノウハウをこの災害情報データバンクから取り出して使用することも可能となるのです。