危機管理業務部 防災課長
 岩崎 健次

【「トリアージ」の意義と責任】
 トリアージ(仏:triage)とは、大規模な災害等に伴う多くの被害者の発生に際し、対応すべき人員、物資などの資源が通常時の規模では対応しきれない事態に陥った時に、最善の結果をうるために被害者対応の優先度を決め、選別を行うこととされています。
トリアージ
< 訓練でのトリアージの様子 >

 歴史的には、フランス軍の衛生隊が始めた「野戦病院におけるシステム」であり、その始祖は、フランス革命でドミニク・ジャン・ラレィがフランス革命後の数々の戦争において、戦傷者を身分に関係なく医学的必要性だけで選別したことに由来します。
 国は、災害時、傷病者全ての人に平等に医療機会を与えるべきところ、命の緊急度に応じてケガ人を4段階に切り分ける「トリアージ」について、十分合理的な災害対応の方策であるという「国民への分かりやすい説明」を行う責任を果していくことが求められています。

【「トリアージ」の成功例、失敗例】
 2008年、わずか5分間で17人もの死傷者を出し、DMATまで出動した秋葉原の「無差別殺傷事件」では、駆け付けた周辺救急隊が「トリアージ」を実施。ケガ人の処置・搬送に優先度を付け、助かる見込みのある人から救助を行ったことに対する国民の理解は概ね良好であり、東京都メディカルコントロール協議会が救急活動の事後検証結果においてもその妥当性を公表しています。
 しかしながら、1995年「阪神・淡路大震災」においては、被害現場が広域で、かつ倒壊家屋等からの逐次の救出作業とケガ人が分散したこともあり、現地病院での患者の重症度の考慮が少ないまま後方病院に患者が搬送され、そこへ自己判断による多くの負傷者もつめかけました。
 結果的に、約6,000人の負傷者が、48の現地病院と47の後方病院(高度医療)に入院しましたが、後方病院への転送基準が曖昧で、外傷やクラッシュ症候群による死亡はむしろ現地病院で高くなった事実から、負傷者に対するトリアージは、ほとんど有効に機能していなかったことがうかがえます。

【「トリアージ」の課題】
 実際の災害時傷病者へのトリアージについて、以下の2つの観点からチェックし、今後の課題とすべきものと考えます。
“鏗下圈塀病者)へ医療を施す資源が不足し、やむをえない状況であること。
被害者(傷病者)への選別作業が、公正かつ適切に行われること。


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 災害時医療の要点は、災害の種類(地震、火災、津波などの自然災害、海上災害、航空災害、鉄道災害、道路災害等の事故災害、テロや新型感染症などの災害)に適合した傷病の種類、発生の時期・場所等あらゆる局面を克服して、現地の救助・救命から後方医療機関までの一貫した医療活動を効果的に完結させることです。
 このため、平素から医療資源を準備し、迅速な体制を確保することが救急医療関係者のトリアージへの負担を減らす意味からも重要なことと考えます。
 このような点から、搬送手段である「ヘリ」の運用やDMATの充実は、医療資源の集中のための最も重要な施策の1つになると考えます。

医療・トリアージ体制の確立
 次いで、トリアージ運用そのものについても注意すべき点があります。
秋葉原事件の場合、単一現場でも統制の執れたトリアージと考えられますが、前述した「阪神・淡路大震災」、2005年の「福知山線脱線転覆事故」の救出活動が、秋葉原事件に比べてより広域で被害規模が大きく、長時間の対応を余儀なくされたため、救護全体のトリアージ機能を十分コントロールできなかったと言えます。特に福知山線脱線転覆事故の場合は、救出隊や医療関係者の配置や対応が分散し、統制のあるトリアージが不十分であり、患者の優先度選別に問題が残りました。
 これら事案の教訓として、災害現場での統制のある「医療・トリアージ体制」を如何にスムーズに確立し、後方の病院との連携を早期に確保するかが重要な課題となります。

【最後に】
 「自助・共助・公助」が、災害対応の手順となっていますが、災害医療はこれらの救助に関する最終ゴールとして、「努めて」多くの人が生き残り、元気を回復できるよう十分な体制を確保しておくことが求められています。その有力な方策の1つとして「トリアージ」を公正に位置づけ、国民の理解の下、その有効性を高めていくことが求められています。