危機管理業務部 研究員
 齋藤 芳

※「海外における危機管理について考える(その2)」のつづき。
 「その2」は、2014年6月9日付の記事を参照ください。



 私がPKOで派遣されたモザンビーク共和国は、アフリカ大陸南東部に位置し、南に南アフリカ共和国、南西にスワジランド、西にジンバブエ、北西にザンビア、マラウィ、北にタンザニアと接し、モザンビーク海峡を隔てて東にマダガスカルとコモロが存在する旧ポルトガル植民地であり、1964年からモザンビーク独立戦争を戦い、1975年に独立を達成しました。独立後も1977年から1992年まで内戦が続きましたが、とても緑豊かな国で、日本では見ることのない景色が広がっていました。
 第3回目は、このような国だからこそなのか、日本では決して見ることのない「危険生物にまつわる話」をご紹介します。

 私が派遣された時期はちょうど雨季でしたが、日本の梅雨とは全く違い、バケツをひっくり返したような雨が降ったかと思えば、カラッと晴れ間が広がる、そんな熱帯地方特有の気候でした。
 昼間に大雨が降り、夜になって晴れると、空一面に日本の赤とんぼ位の白蟻が何十万匹も空一面に飛び交い、コピー機の中に入り込んだり(コピーをすると羽がコピーされたりする)、食事のスープの中に飛び込んできました。テントの入り口を閉め忘れた日には、テントの中が白蟻だらけになったものです。
 白蟻は人体に直接影響はないですが、中には噛まれると体中に電気が走ったような衝撃をもたらすような赤い蟻(顔についている鋏が頭より大きく鋭い)もいて、実は私も何度か噛まれたことがあるのですが、噛まれた瞬間、痛みに汗が噴き出ました(現地では、赤ん坊が噛まれてショック死したという話も聞きました)。
 宿営地には1mを超える蟻塚が至る所にあり、退治しようとガソリンを蟻の巣穴に流し込んで火をつけたら、地下で繋がっている蟻の巣のそこら中から火の気が上がってびっくりしたことを覚えています(これもある意味、危機管理意識の欠如ですね。言うまでもないことですが、皆さんは危ないから絶対にやめましょう)。
10_アリ塚
 この他に、手の平程の大きな牙を持つ蜘蛛(タランチュラの一種)や蛇と見間違えるほど大きなヤスデ(ムカデと似ていますが、生殖口の位置や発生の様式、体節の歩脚の数など、様々な点で異なります。また、ムカデが肉食性であるのに対し、ヤスデは腐食食性で毒のある顎を持ちません)がいました。
 朝、起床して靴を履くときには、必ず逆さまに振ってから履いていました。それは、ときどき靴の中にサソリやムカデのような虫、毒蛇が入り込むことがあり(夜、靴を脱いでいる間に入ったのでしょう)、毒虫に対する危機管理から習慣づけられたためです。
10_タランチュラ
 宿営地で倉庫代わりに使っていた鉄道コンテナにコブラ(神経毒を持つ猛毒蛇)が出たと大騒ぎになったことがあり、全員で探しましたが、結局見つけることはできませんでした。その代わり、噛まれたら3歩歩く間に体に毒が回り死んでしまうといわれるほどの猛毒を持つ蛇が、事務所として使っていたプレハブの中の椅子の下にいるのを見つけ、足で頭を押さえ、頭を切断したことがありました(残酷で気の毒に思いましたが、こうでもしないと自分や周りの仲間がやられてしまう危険性があったのです)。

 このように、日本では爬虫類館などにでも行かない限り見ることのできないような虫や毒蛇をたくさん見ましたし、血清もすぐには手に入らないこと等を考えると、これら見たことのない虫、蛇やトカゲなど、得体のしれない生物に迂闊に近づくのは大変危険な行為です。
 また、蠅や蚊を駆除する意味から、宿営地で唯一の個室といえる便所(ただし、壁はなく、野外に3mの穴を掘って板を渡しただけの簡素なもの)は、週に1度、衛生科の隊員(本物のドクターや看護師)が、全員の排せつ物の上に、灯油とガソリンを混ぜたもので火をつけ、病原菌の元となる蠅やウジ虫の処理をしていました。健康に対する危機管理は、これ位の注意(用心深さ)が必要だとも思っております。
 ちなみに、(当たり前ですが)健康な自衛官ばかりが派遣されて行ったにもかかわらず、現地での勤務を続けていくうちに、ほぼ全員がお腹の調子を崩し(それも一度や二度じゃない)、医務室のお世話になったという苦い思い出があります。

 いずれにしても、海外に出ると思いもよらない危険生物が潜んでいるものです(海外ばかりではなく、もしかすると日本でも同じことが言えるかもしれません)。それらに迂闊に近づいたり面白半分で扱うと、大変な事態になってしまいます。前回の「病気に関する危機管理」と相通じることですが、これら危険生物に対する危機管理意識を持つと同時に、自分の行く国や地域ではどのような危険生物(それに関連する病気等)が存在しているのかなど、あらかじめ情報をしっかり把握しておくことが大切だと考えます。

 危険生物にまつわる話ということで、恐ろしい事ばかり書いてしまいましたが、逆に、下のカメレオンのような、日本ではなかなかお目にかかることのない珍しい生物を沢山見ることができたことを、最後に付け加えておきます。
10_事務所にいたカメレオン
 次回は、「宗教にまつわる話」をご紹介します。