代表取締役社長
山本 忠雄
皆さん、防災の現場では次のような言葉がありますが、何のことか分かりますか?
緊援隊、広緊隊、TEC-FORCE、DMAT、SCU、ERU、dERU。
なかなか分かりづらい用語ですね。という訳で今回のテーマは、「防災用語は分かり易く」です。
さて、答えですが、これらはいずれも阪神・淡路大震災を教訓に、大規模災害に備えて設置された組織や装備のことです。
緊援隊は、全国の自治体で登録されている「緊急消防援助隊」のこと。
広緊隊は、警察の「広域緊急援助隊」のこと。
TEC-FORCE(テック・フォース)は、Technical Emergency Control Force の略で、国土交通省が全国の地方整備局などから派遣する「緊急災害対策派遣隊」のこと。
DMAT(ディーマット)は、Disaster Medical Assistance Team の略で、全国の医療機関に登録されている「災害派遣医療チーム」のこと。
SCUは、Staging Care Unit(ステージングケアユニット)の略で、重篤患者を被災地外の医療機関に搬送するための「広域搬送拠点臨時医療施設」のこと。
ERUは、Emergency Response Unit の略で、「緊急対応ユニット」と言い、日本赤十字社が被災現場での医療救護を行うための機材のこと。
dERUは、domestic Emergency Response Unit の略で、「国内型緊急対応ユニット」、つまりERUの国内用のもののことです。
< SCUで活動中のDMAT(国民保護実動訓練時の様子) >
これらの言葉(名前)はそれぞれの省庁や機関が命名したものですが、如何にも分かりにくい言葉だと思いませんか?
私はこれらの言葉を、平成15年に当時の静岡県防災局に就職してから耳にし、緊急消防援助隊のことは略して「緊消隊」と言っていましたが、総務省消防庁の中では今でも「緊援隊」と言われています。また、広域緊急援助隊は「広緊隊」と略して言われており、何処の部隊か分かりにくいので「警察派遣隊」とでも言えば良いのにと思っていましたが、東日本大震災後の体制の見直しでは「警察災害派遣隊」という名前になりました。TEC-FORCEは平成20年5月に設置されましたが、「国交省災害派遣隊」という名にすれば良かったのにと思っています。分かりにくい言葉の極めつけはERUで、「緊急対応ユニット」という言葉からは医療救護用だということは分かりませんし、ましてやdERUが国内用だなどということは想像もつきませんでした。このdERUは、今では「緊急仮設診療所」という名に替えられたようです。
さらには、我が国の防災体制の構築についての論文などでは「レジリエンス」という言葉も良く聞かれます。「レジリエンス」(resilience)は、一般的に「復元力、回復力、弾力」などと訳される言葉で、災害に遭っても速やかに回復できる体制を整備しておくことが必要だという意味で使われているようです。これについては、政府は「強靱」と捉え、「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災の取組みは、国家のリスクマネジメントであり、強くてしなやかな国をつくること」としています。この方が分かり易いと思います。
また、政府や自治体の災害対策本部運営の図上訓練を支援していますと、リエゾン、クロノロなどの言葉も良く定義されないまま使われ、参加者からは「何のことか」と質問されることがあります。リエゾンは、自衛隊の連絡幹部(LO=Liaison Officer)から使われ出したものです。また、クロノロは、災害対策本部の活動記録に関して使われる言葉ですが、デジタル大辞泉によればクロノロジー(chronology)のことで、「過去の出来事を年代順に並べたもの。年表。また、年代記」のこととあります。したがって、馴染みのないクロノロなどと言わず、単に「時系列活動記録」と言った方が分かり易いと思います。
自衛隊では(軍隊はどこでもそうですが)、地図や文書などに簡略化して記述するために部隊符号、記号というものがあります。例えば、師団はD(Division)、旅団はB(Brigade)などと書きますが、言う(読む)ときには「D」とは言わず、「師団」と言うように決められています(それでも日本語への言え換えを忘れ、部外の人には分からない言葉を連発することがありますが)。
我が国においては外来語、カタカナ言葉が多すぎると言われ、研究者の論文などでは何を言っているのか理解しにくいものも少なくありません。防災の世界でも上の事例のように、国際化というわけでもないのにやたらと英語やローマ字表記が使われ、一般の人(行政職員含み)には理解しにくい言葉が氾濫しているように思われます。防災に関する用語を使い、あるいは名前を付けるときには、「名は体を表す」「分かり易い」という基本的なことを外さないよう気をつけることが必要だと考えています。