危機管理業務部 主任研究員
吉田 勝美
【始めに】
「安全と安心※」という言葉が使われようになってから久しいものがあります(※日本で最初に使われたのは、平成13年8月30日付の農林水産省「食料の安定供給と美しい国づくりに向けた重点プラン」の「安全安心で良質な食料の供給システムの構築による消費者の信頼確保」が始まりのようです)。
「安全」は「物理的な危険性がないこと」、「安心」は「心理的な不安がないこと」というような意味合いですので、本来は一つの合わせ言葉としては使われないのかもしれません。しかし、これら二つの言葉は、ある意味で質感が似ており、大変心地よい響きがあります。
46都道府県のホームページを調べてみると、「安全・安心」(または「安心・安全」)が直接または主要なリンク先で見かけないことはないくらい普及しています。これらのホームページの中で、「安全・安心」は「食品」の分野で使われたり、「防災・危機管理」の分野で使われていることが多いようです。
仕事柄、地方公共団体が行う防災訓練等をご支援することもあるのですが、いかにして地方自治体等が行う『市民の「安全」と「安心」の確保』をお手伝いしたら良いのか、危機管理(防災)に携わる者として日々考えることが多い毎日です。
市区町村に在住する住民等の危機管理を考えるべき人は、一義的には市区町村長等ですが、家庭における家族の危機管理を考えるべき人はご夫婦(親)であろうかと思います。そのような観点から、今回は、身近なところから「家庭の危機管理」について考えてみたいと思います。
家庭において考えなければならない危機(危険)は様々ですが、人(ひと)の習性として、正体が分からないモノに対して恐れを抱くことが多いことから、先ずは身近にある危険(危機)がどの程度のものなのかを努めて具体的に理解しておくことが重要です。
家庭における身近な危険性について、「死亡」に関することと「毒性」に関することの二つについて、身近なモノや数字に置き換えて考えてみます。
【死亡について】
日本の総人口(平成23年)は約1億2,618万人ですが、年に約125万人の方々が亡くなられています。死亡原因の内訳は下図のとおりです。
約7割の方は、病気で亡くなられています。図の中で不慮の事故というのは、災害、交通事故、家庭内での事故(窒息、溺死等)などです。
毎年インフルエンザが流行しますが、季節性インフルエンザで亡くなられる方は、約1,000人に1人(死亡率約1万人/総患者数約1,000万人)ですから、1年間に亡くなられる方の確率とほぼ同様であり、比較的元気な方が、医師の治療・指示を適切に受けてさえすれば、いたずらに畏怖すべき病気ではないとも言えます。
また、4人家族全員がどの程度の期間無事に過ごせるかを、私なりの目安として下表のように試算してみました。表からは、「平穏無事」に暮らし続けることは意外と難しいことが分かります。
なお、ご夫婦が金婚式(結婚50周年)を迎えられるのは、概ね2組に1組程度と考えられますので、年齢を重ねられたご夫婦は、是非ともお互いを大事にされてください。
ちなみに、宝くじ(高額)を当てることができる確率は、500万分の1〜1,000万分の1程度ですので、文字通りに一攫千金のこととなります。
【身近なモノの毒性】
「猛毒である」として良く耳にすることが多い、ボツリヌス毒素、ダイオキシン、ふぐ毒、サリン及びニコチンなどの毒性について下表に示しました。
これを見ると、身近でも結構危険性が高いモノがあり、タバコなどはその最たるもので、小さなお子さんがいる家庭では特に気を付ける(誤飲等)必要があります。また、かつてダイオキシンの毒性が話題になりましたが、通常存在する状態では特段心配する必要はありません。サリン・VXは、ダイオキシンやテトロドトキシン(ふぐ毒)より毒性は低いとはいうものの、自然界には存在せず、純度の高いものはやはり恐ろしい物質といえます。
(注)公表データにより、半数致死量及び物質中の毒性物質量は異なる値を示す場合があります。