危機管理業務部 研究員
橋本 守
私は、平成26年に陸上自衛隊を定年退職し、弊社に入社いたしました。
入社前から各種防災訓練に研修を兼ねて参加させてもらい、災害に備える訓練等の重要性と、その体験・経験、そして人と人との繋がりの大切さを知ることができました。
A市での避難所運営訓練に参加した際に感じたことは、自治体と自治会の意思の疎通がとても良いということでした。
自治会長以下、訓練に参加されるほとんどの方が顔見知りで、まず現場を仕切る人がはっきりしていて、また、訓練に対する意気込みも十分であり、肝心の避難所の運営も本部運営会議もしっかりと実施していたのは大変素晴らしかったと感じました。
しかしながら、別のB市の自治会では、訓練をする機会はもとより、普段から集まる機会が少ないためか、取り仕切るべき事項もはっきりせず、何を・どうするにも段取りで手間取っているような状態でした。やる気がないとか、能力が低いというわけでは決してありません。これは正に「やったことがあるか」「やったことがないか」の違いであると感じました。
ただ、そんな中でもとても良かったと感じたのは、小学生の低学年の数名が友達同士で参加していたり、家族4人が宿泊を伴って参加している姿勢はとても素晴らしいと感じました。特に、小学生は、炊事の手伝いや配膳、寝床の準備など、積極的に行動し、防災訓練という感覚ではなく、キャンプ感覚で楽しみながら経験しているように見受けられました。私も、たった半日でしたが、その小学生たちと仲良しになることができました。
訓練は、もちろん中身(内容)も大切ですが、「訓練」という名目の共通目標に対して一生懸命にみんなが一つになることこそが本当に重要なのではないかと感じた次第です。
< 避難所運営訓練時の様子 >
ここからは私の体験談になりますが、陸上自衛隊に所属していた平成12年に、三宅島の火山噴火に伴う災害派遣に行きました。
この年は、ちょうど東京都が計画する離島防災訓練があり、私は陸上自衛隊の師団司令部の災害担当として訓練の調整役で参加していたことから、防衛省をはじめ各関係防災機関や自治体などの関係公共機関の方々と調整会議や現地調査を通じ、同じ目的を達成するために集まっただけの間柄から、冗談を言えるほどの関係にまで仲が深まっておりました。
しかし、訓練準備を進めていた平成12年6月26日、雄山の火山活動が活発化し、7月8日に本当に噴火してしまいました。防災訓練ではなく現実に、です。
そんな時一番助かったことは、訓練の調整会議で知り合っている防災の担当者同士が顔見知りであったということです。関係機関の情報はお互いに情報共有し、もちろん報道よりも早い情報を担当同士でやりとりできました。共通認識だったのが、各担当者はそれぞれ組織を背負って調整しておりますが、何か命に係わる時は、東京都庁、警視庁・消防庁・自衛隊・海上保安庁など、組織云々などと言っている場合じゃないというのが私たち担当者の思いでした。
陸上自衛隊は、噴火後、三宅島の火山観測・監視のために連絡班を数名交代で配置して現地の状況を把握しておりましたが、ガス発生等の緊急事態が発生した場合の離脱手段が無かったため、検討していたところ、海上保安庁の担当者から私に「洋上にヘリ搭載の巡視船がいるので、俺に連絡してくれ」と言われ、本当に感激したことを覚えております。
日頃から行事(防災訓練・学校行事・地域のイベント・お祭り)等の活動を通じ、人と人との繋がりを大切にし、顔が見える関係を継続的に構築していることが、いざというときに威力を発揮できるのだと思います。顔が分かり、性格も分かり、相手のことを知ることで思いやりが生まれ、互いに助け合いの気持ちが芽生えることによってはじめて共助に繋がるのだと思います。お祭り、訓練、行事など何でも構いません。時間と場所、そして、共通の思い出などを共有できれば、その繋がりは更に深いものになると思います。
訓練等を実施することは、危機管理上のあらゆるスキルを向上させるために一番重要なことであることは間違いありませんが、同一の目標を達成しようとするプロセスで得られる人と人との繋がりと縁が、危機管理にとって非常に重要な潤滑剤となることは間違いありません。