危機管理業務部 研究員
 山之内 正和

 平成26年度に私が担当させていただいた業務のうち、南海トラフ地震が発生した場合に甚大な被害が予想される地域での「広域医療搬送訓練」の実施に係る業務をご支援する機会がありました。

 訓練は、県、当該地域の市町、医療機関、防災関係機関が参加した実動訓練でした。
 訓練参加者は、それぞれの役割を理解したうえで役割に応じた活動を適切に実行し、全体としての活動は有機的に機能していたと感じております。
 特に、DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)活動拠点本部は、参集したDMATチームに対して速やかに任務を付与し、SCU(Staging Care Unit:広域医療搬送拠点での臨時医療施設)の機能等が迅速に発揮できるよう活動していました。
 参加者の対応能力は高く、広域医療搬送拠点及びSCUを運営するうえで機能の異なる組織が連携して活動しなければならない中、お互いの組織を理解し合い、相互に連携し、円滑かつ速やかに広域医療搬送を実施できるよう活動していました。
 また、本訓練には3種類のヘリコプターが参加しましたが、これらの飛行調整、離着陸誘導、ヘリポートの安全確保及び搭乗者・患者の適時性ある搬送などが円滑に行われていたことを目の当たりにし、頼もしく感じたところです。
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< 広域医療搬送訓練時の様子 >

 この時、SCUで活動しているDMATの方々と次々に搬送される患者役の方々を見ながら浮かんだ疑問が「南海トラフ地震などによる大規模災害が発生した際、SCUで広域搬送予定患者をどれくらいの時間待機させるのだろう?」というものです。
 SCUには、被災地域内の現場や病院においてトリアージにより分類され、被災地域外の病院で治療を行う必要があると判断された傷病者が搬送されてくるわけですが、当然、重症患者が運ばれてくるであろうし、SCUの現状としては、被災地域内の空港隣接の施設に臨時に開設されるため、医療施設としては気温などの空調管理や衛生管理は勿論のこと、医療機器や薬品等の医療資材が十分に確保されているとは言い難いと思われます。
 SCUでどれくらい待機させるかは、使用する航空機と被災地域以外の受入れ病院の状態・調整状況によりますが、この疑問を少しでも解消するために私なりに調べた「東日本大震災」での事例を紹介しておきたいと思います。

 東日本大震災においては、ドクターヘリが16道府県から16機出動し、域内搬送を含めて140名以上の患者搬送が実施されました。
 初めて行われた自衛隊の固定翼機による広域医療搬送は5便で、19例が搬送されたに過ぎませんでした。
 特に、時間的な記録が確認できたものでは、第1便は発災29時間後の3月12日19:55に花巻空港を出発、最後の5便は96時間後となっており、とても速やかに対応できたとは言い難いと考えられます。
 出発が遅れた原因としては、“鏈卉楼茲広範に渡ったためDMATの動員が遅れたこと、関係機関の調整に時間を要したこと、9域医療搬送計画が立っていなかったこと、が言われています。
 SCUでの待機時間が長い場合、患者は体力を消耗しますので、「避けられた災害死」を発生させる可能性が高くなります。
 当然のことながら、広域医療搬送においては、いかに速やかに被災地域外の病院に搬送するか(できるか)が課題となっております。
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< 花巻SCUの活動状況(厚生労働省「第2回災害医療等のあり方に関する検討会 資料2」より) >

 このように、災害医療には様々な課題が顕在化しています。
 災害医療は、危機管理において、生命に直結する重要な一部である反面、専門性も高いため、従事する方々以外はなかなか理解し難いものです。
 今回は、実際の訓練の事例を引き合いに、災害医療の課題等の一端をご紹介しましたが、本ブログへの投稿を良い機会として、私なりに研究し、災害医療を考えていきたいと思っております。
 本稿の締めくくりとして、災害医療に係る主要な用語の意味等について補足しておきます。

※「災害医療」とは
‖腟模災害(地震、火災、津波など)等により、対応する側の医療能力を上回るほど多数の医療対象者が発生した時に行われる医療を指す。
医療体制及び避難場所の準備、食料支援の確保、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)のケア、ボランティアの組織、災害派遣医療チームの連携などのすべてを包括して言われる。

※「広域医療搬送」とは
“鏈卉楼茲蚤弍困難な重症患者を被災地域外に搬送し、緊急に治療を行うため、国が政府の各機関の協力のもとに行う活動のこと。
大規模災害が発生した際、広域医療搬送活動に従事するDMAT等は、速やかに被災地外の拠点に参集し、航空機等により被災地内の広域搬送拠点へ移動する。
H鏈卉脇發旅域搬送拠点へ派遣されたDMAT等は、拠点内に患者を一時収容するSCUの設置を補助するとともに、一部は被災地の都道府県が調整したヘリコプター等で被災地内の災害拠点病院等へ移動し、広域医療搬送対象患者を選出し、被災地内の災害拠点病院等から被災地内広域搬送拠点まで搬送する。
と汰した患者をSCUへ収容し、広域搬送の順位を決定するための再トリアージ及び必要な追加医療処置を実施する。
ト汰順位に従って、広域搬送用の自衛隊機で被災地外の広域搬送拠点へ搬送し、広域搬送拠点から救急車等により被災地外の医療施設へ搬送して治療する。

※「DMAT(Disaster Medical Assistance Team)」とは
〆匈欧竜淦期(概ね48時間以内)に活動できる機動性を持った、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣医療チームのこと。
広域医療搬送、病院支援、域内搬送、現場活動等を主な活動とする。
0綮奸看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成される。

※「SCU(Staging Care Unit)」とは
ヾ擬圓両評の安定化を図り、搬送のためのトリアージを実施するための臨時の医療施設として、必要に応じて、被災地域及び被災地域外の広域医療搬送拠点に設置される。
被災地域に設置されるSCUは、被災地域内の病院等から集められた患者の症状の安定化を図り、自衛隊等の航空機による搬送のためのトリアージを行うことを業務とする。
H鏈卉楼莖阿棒瀉屬気譴襭咤達佞蓮⊆衛隊等の航空機により搬送された患者について、転送される医療機関の調整と転送のためのトリアージを行うことを業務とする。また、必要に応じて患者の症状の安定化を図る。

※「トリアージ」とは
〆匈屋緡鼎砲いて、負傷者等の患者が同時発生的に多数発生した場合に、医療体制・設備を考慮しつつ傷病者の重症度と緊急度によって分別し、治療や搬送先の順位を決定すること。
救命見込みのない患者または軽傷の患者よりも、処置を施すことで命を救える患者に対する処置を優先すること。
J浸では最大限の労力をもって救命処置された結果、救命し社会復帰し得るような傷病者も、人材・資材が相対的に著しく不足する状況では全く処置されず、結果的に死亡する場合もあることが特徴。