危機管理業務部 研究員
山之内 正和
※「災害医療について考える(その1)」のつづき。
「その1」は、2015年4月16日付の記事を参照ください。
「災害医療について考える(その1)」で、東日本大震災における広域医療搬送の実施例について、自衛隊の固定翼機により5便で19例が搬送され、ドクターヘリが16道府県から16機出動し、域内搬送を含めて140名以上の患者搬送を実施したとご紹介しました。

< 救急患者の搬送イメージ >
実のところ私は、「あれだけの大震災でこの程度の数は少なすぎるのではないか?」と感じており、搬送する手段が少なかったのか、搬送を必要とする患者が少なかったのかも疑問に感じていたので、負傷(症)者の状態について調べてみることにしました。
皆様もご承知のとおり、東日本大震災の特徴は、何といっても「津波による被害が甚大」だったことです。
被害の状況を阪神・淡路大震災と比較してみると、下表のように、東日本大震災では死者が圧倒的に多く、重傷(症)者は少なかったことが言えます。津波による人的被害の特性は、溺死による死亡率が高いことが言えますが、生存者で受傷(症)した患者は、重傷(症)者に比較すると軽傷者が多かったようです。

東日本大震災における仙台市内の災害拠点病院の場合を一例として紹介すると、1日に100人弱の患者が救急車で運ばれてきましたが、その大多数は救出まで厳寒の野外で過ごした低体温症患者でした。
地震や津波の直接被害による患者は、発災から24時間以内の来院であり、圧倒的に軽傷(症)患者が多く、その後患者数は一旦減少しましたが、発災3日後から4日後に、仙台市から遠方の沿岸部で孤立していた地域から患者が搬送されてきたため、患者の多数発生時期は2回に区分されました。
発災から24時間以降の患者は、避難後に生じた傷病が大部分だったそうです。
それらとは別に、地震と津波により自宅を失った方々の在宅治療や被災地域内で治療を受けていた慢性疾患患者の医療中断に対する処置が課題となりました。
阪神・淡路大震災後に体制が整備されたDMATは、震災後に多発するクラッシュ症候群や重傷(症)外傷への救命治療(被災地内での安定化治療と被災地外への後方搬送など)に従事することを想定していました。
東日本大震災の津波災害においては、多数のDMATが災害急性期(概ね48時間以内)の被災地に、迅速に参集して活動することができましたが、想定していた救命治療を要する重傷(症)患者の発生は多くなく、外科的な治療が必要な患者が少なかったため、従来想定されていた外傷やクラッシュ症候群等の疾患以外の慢性疾患への対応が必要となりました。
次回も引き続き、災害医療を考えていきたいと思います。
本稿でも、締めくくりとして、災害医療に係る主要な用語の意味等について補足しておきます。
※「災害拠点病院」とは
�〆匈家�生時に災害医療を行う医療機関を支援する病院のこと。
��多発外傷、クラッシュ症候群、広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能を有し、被災地からのとりあえずの重症傷病者の受入れ機能を保有する。
��傷病者等の受入れ及び搬出を行う広域搬送への対応機能、自己完結型の医療救護チームの派遣機能、地域の医療機関への応急用資器材の貸出し機能を保有する病院で、各都道府県の二次医療圏ごとに原則1か所以上整備されている。

※「医療圏」とは
医療圏(いりょうけん)とは、都道府県が病床の整備を図るにあたって設定する地域的単位のこと。
��一次医療圏
身近な医療を提供する医療圏で、医療法では規定されてはいないが、保健所や介護保険制度等との兼ね合いから、市町村を単位として設定されている。
��二次医療圏
特殊な医療を除く一般的な医療サービスを提供する医療圏で、「地理的条件等の自然的条件及び日常生活の需要の充足状況、交通事情等の社会的条件を考慮して、一体の区域として病院における入院に係る医療を提供する体制の確保を図ることが相当であると認められるものを単位として設定すること」と規定されている。
複数の市町村を一つの単位として認定される。
��三次医療圏
最先端、高度な技術を提供する特殊な医療を行う医療圏で、「都道府県の区域を単位として設定される。
ただし、当該都道府県の区域が著しく広いこと、その他特別な事情があるときは、当該都道府県の区域内に二以上の当該区域を設定し、また、当該都道府県の境界周辺の地域における医療の需給の実情に応じ、二以上の都道府県の区域にわたる区域を設定することができる」と規定されている。
原則、都道府県を一つの単位として認定される。
※「低体温症」とは
�‖硫垢�正常な生体活動の維持に必要な水準を下回ったときに生じる様々な症状の総称。
�▲劵箸任蓮�直腸温が35度以下に低下した場合に低体温症と診断される。また、低体温症による死を凍死と呼ぶ。
�7敕戮任△譴仄�律神経の働きにより自力で回復するが、重度の場合や自律神経の働きが損なわれている場合は、死に至ることもある症状。
※「クラッシュ症候群(挫滅症候群)」とは
�〆匈音�に手足や腹部などの筋肉が長時間(一般に1〜2時間以上)圧迫され、その解放後に起こる様々な症候を言う。
��筋肉細胞が傷害や壊死を起こし、筋肉内の大量のカリウムが流失して高カリウム血症になったり、筋肉を構成しているミオグロビンが大量に遊離して腎臓の尿細管を詰まらせ急性腎不全を起こす。
��重傷であることが見落とされる場合もあり、致死率は比較的高いようである。