危機管理業務部 主任研究員
松並 栄治
平成12年度に当時の石原東京都知事の肝いりで実施された「ビッグレスキュー東京2000」をご存知でしょうか。これは、いわゆる「東京都の総合防災訓練(実動)」です。
当時、私は陸上自衛隊東部方面総監部の防衛部において、防災・警備を司る部署で勤務していた関係で、この防災訓練に担当の一人として関わることになりました。
江戸川の篠崎緑地、銀座、駒沢公園、立川防災拠点等に訓練会場を設け、各種訓練を繰り広げたわけですが、その訓練会場の一つに白髭地区会場がありました。ここで実施された訓練は、都市再開発事業によって解体予定の家屋を利用し、崩壊した家屋の下敷きとなった住民を消防が救助する、というものでした。
今回の主題は、この防災訓練の話ではなく、その白髭地区会場から隅田川を挟んだ対岸にある「都営白髭東団地」のお話です。
上記の訓練の事前偵察時に初めてこの団地を見た時、その東側の密集市街地と対比すると、まるで巨大な壁・要塞といった印象を持ちました。
< 団地のイメージ(※実際の場所とは異なります) >
墨田区は、関東大震災の時には隅田川の蔵前橋近くで多くの人々が焼死し、東京大空襲では、やはり隅田川の言問橋の上で多くの人が焼死したと言われています。どちらも隅田川の東の密集市街地から西に向かって逃げようとした人々が、隅田川の橋を渡りきることができずに亡くなったということになります。
大規模火災の際には、巨大な火災旋風が巻き起こって、通常の消防活動では火勢を押さえきれないために、このような悲惨な事態を招いたということであり、そこで密集市街地の火災の延焼をこの白髭東団地において防ぎ、白髭東団地の西側にある避難場所(東白髭公園)を確保しようという狙いからこの団地は作られたそうです。まさに「壁」の役割を有していると言えます。
白髭東団地は、1〜18棟(12〜14棟は防災倉庫)までありますが、棟すべてが横につなぎ合わされて防災壁が形成され、火災発生時は棟間の隙間を鉄の扉で締めることにより火の手が広がらないようになっています。また、火災発生時に、西側の密集市街地からの飛び火を防ぐため、火災報知器と連動して各戸のベランダに設置された防火シャッターが自動的に下りる仕組みになっています。さらに、火の手から住民を守るため、団地の5階の避難場所(東白髭公園)側に等間隔に放水銃も設置されています。
白髭東団地の西側に広がる避難場所(東白髭公園)は、隅田川に望み、燃えにくい常緑樹を植え、消火池、災害対応公衆トイレ、救援物資倉庫などを備えており、まさに密集市街地で発生した巨大な火災旋風から人々を守る要塞のようです。
以上、都営白髭東団地の立地や防災上の役割等についてご紹介しましたが、戦争において堅固な要塞を構築して敵の攻撃を破砕しようとしても、その部隊が普段の訓練を怠り、漫然と要塞に籠っているだけでは敵の攻撃を防ぎきることはできないのと同じで、この「巨大防災団地」を真に活かすためには、防災意識を高め、継続的な防災訓練を実施することにより、組織・個人の防災に関するスキルを向上させることが何より重要だと考えます。