危機管理業務部 研究員
 齋藤 芳

 韓国で今、社会を震撼させているニュースの一つに「MERS(中東呼吸器症候群)」(韓国語では메르스/メルス)があります。
 6月8日現在で感染した方のうち6名が亡くなっており、韓国国民からは国や保健福祉部の危機管理の在り方に非難の声が大きくなっているようです。

 韓国では5月4日、中東バーレーンに半月間滞在した68歳の男性がこのウイルスに感染したことを知らずに帰国し、忠清南道牙山市(아산시/アサンシ)、ソウル市内の病院、京畿道(韓国中部)平澤市(평택시/ピョンテクシ)で受診し、各地で感染が広がったようです(※京畿道平澤市は青森市、松山市と友好都市になっています)。
 6月5日の韓国メディアの報道によりますと、韓国南部の全羅北道淳昌郡の淳昌巴(순창읍/スンチャンウプ)に住む72歳の女性がMERSの陽性反応を示したため、全羅北道保健福祉部が要請し、警察の協力を得て、4日午後5時からこの女性を含め、105名の住民が住む村を出入禁止にするという封鎖処置を執りました(※巴とは韓国の行政区分で日本の村にあたる)。
 また、6月6日の韓国の新聞によりますと、MERSによって死亡した方は4名で、致死率は以前の8.3%から9.7%に高くなったとありました。また、MERS感染患者5人が追加で確認されており、41人となっています。追加患者の中には韓国空軍幹部も含まれており、軍や集会所など多くの人が集まる場所での感染が心配されます。
 韓国の報道を見ますと、ソウル市内を歩く歩行者はマスク姿の人々が目につきますが、「予防にマスクは必要ない」と言っていた保健福祉部の文亨杓(ムン・ヒョンピョ)長官が検査の現場でマスクを着用していたことが報じられ、文長官や保健福祉部への批判が高まったようです。

 このMERSコロナウイルスは、2012年に中東で発見され、一般的な風邪ウイルスとして知られるコロナウイルスの新種による感染症で、熱やせき、重い肺炎などを引き起こし、ヒトコブラクダから人に感染するとされ、医療関係者や家族ら患者と濃厚に接触した人にも感染が確認されているようです。
 今回の韓国での発症は、発症男性の家族や、男性が入院していた医療機関のスタッフ、患者らに広がっています。これまでは、中東などで患者の家族や医療関係者に感染が広がった例がありますが、これまでの流行地だった中東と異なり、日本と韓国の往来者が多いこともありますので、予防策として最も大切なことは、決して他人事とは思わないマスクを着用する頻繁に手洗いやうがいをする、そのような感染症が流行している地域には渡航しない(旅行等に行かない)、などといった最低限の危機意識が必要なのだと思います。
マスク