危機管理業務部 研究員
 齋藤 芳

※「「MERS」ってなに?(その1)」のつづき。
 「その1」は、2015年6月8日付の記事を参照ください。



 前回に引き続き、韓国社会を震撼させている「MERS(中東呼吸器症候群)」(韓国語では메르스/メルス)について触れてみたいと思います。

 6月15日現在で、感染した方のうち16名が亡くなっており(致死率10.7%)、韓国国民からは国や保険福祉部の危機管理や情報開示の在り方等に対して、日増しに非難の声が大きくなっているようです。
 韓国の新聞報道によると、MERS(中東呼吸器症候群)は5月初旬に、中東から帰国した一人の咳から拡散したようですが、6月15日現在、韓国では国内患者は5名増えて150名になっており、新規患者5名中3名が4次感染と確認されています。これは、3次感染者が発生してから3日後のことであり、MERSウイルスが予想より早く広がっていることに韓国社会は憂慮しており、パンデミック(世界流行)も懸念されています。
 数日前に保健福祉部長官の文亨杓(ムン・ヒョンピョ)長官が、「感染症に対してはマニュアル通りに行っており、問題はない」と発言したことがインターネットのニュースに載っていましたが、危機管理において勿論マニュアルは大切ですが、特に想定外の状況が生起した場合などは、(マニュアルをベースにしつつも)その時々やケースバイケースで臨機応変の柔軟な対応が執れることが何より大切なことであると思います。

 今回確認された4次感染者は、6月3日にMERS感染者に対して、死亡直前に心肺蘇生を行った大学病院(건양대병원/コンヤン大学病院/大田広域市西区)の医療スタッフであり、首都ソウルから高速バスで2時間の韓国第5の都市に感染者が出たことになります。
 また、韓国第2の釜山広域市でも感染者が発生したことからも、感染は韓国全土に広がりつつあるように思われます。これまでは比較的高齢者の発症が多かったのですが、最初にこの病気が確認された平澤市では、小学生の隔離対象者も確認された模様です。
 このような中、6月14日にMERS患者4名が完治し、退院したという明るいニュースもありましたが、健康福祉部当局は、患者の数よりも場所が大切であるということに固執している節がありますが、一方で、全国で約5,000名の隔離対象者がいると想定されているにも拘わらず、対象病院名などをほとんど公表しないなど、危機管理上の情報共有において後手を踏んでいる感は否めません。

 現在のところ、MERSは治療法が確立していないため、石鹸による手洗いや感染者との密接な接触を避ける、といった根本的な対応が何より重要だと思います。
 幸いにも、今は日本での感染者は確認されていませんが、病気やウイルスに対する危機管理意識を忘れないことがやはり大切だと痛感しています。
マスク2