危機管理業務部 主任研究員
 大木 健司

 私は、主に地下鉄を利用して通勤しています。地下鉄に限らず、ほとんどの公共交通機関には「優先席」が設けられていますが、この優先席でスマホや携帯電話を使用している人が多いと常々感じています。
 目の前に、腰の曲がったお年寄りや白杖をついた目の不自由な方が来ても、携帯の操作に夢中?になっている人や、寝たふり?をしている人をよく見かけます。(仮に)電車が急停車してお年寄り等が転倒しても、その人たちは心が痛まないのでしょうか?
 そればかりか、「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」と車内アナウンスが流れ、至る所に(目の前の吊革にまで)「電源OFF」のステッカーが貼ってあるにも拘わらず、なぜ平気でスマホや携帯電話を使用(操作)するのでしょうか?
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 最近ではこれらの電波がペースメーカーに与える影響はほとんどないと言われていますが、ペースメーカーを使用している人にとって、近くで電波を出す機器を使用されることほど気持ちの悪いものはないと思います。そもそもペースメーカーへの影響の有無は別の問題として、なぜ「切ってください」と言われているのに、なぜ「切らなくて(使用して)よい」という自己判断(自分の都合)を優先するのか、ここが「危機管理」を考えるうえで一番の問題だと思います。優先席付近でスマホや携帯電話の電源を切らない人は、「旅客機」の中でも電機電子機器類の電源を切らないのでしょうか?(昨年9月から一部規制が緩和されてはいますが…。)
 つい使いたくなってしまう気持ちは私にも理解できます。確かに、(人によっては)長時間電車にただ揺られているよりかは、その間スマホを使って気になる情報を収集・検索したい、お気に入りのサイトを見たい、知り合いに今のうちにメールをしておこう、アプリのゲーム等をやっていれば時間が経つのも早い、この後の乗り継ぎは何線だっけ?などなど、空白の、いわゆる「ほぼ生産性のない時間」を少しでも「生産性ある有意義な時間」にしたいなどと思うのは人の性であり、誰しもそう思うものです。
 しかしながら、「優先席付近での電源OFF」という行為は、マナー(周囲の人への心遣い)のレベルではなく、「ルール(守らなければならない規定)」と言うべきものではないかと思います。

 最近では、駅のホーム等で「歩きスマホ」を注意するアナウンスもよく耳にしますが、歩きスマホをする人は本当に沢山(激増して)います(歩きスマホに限らず、「ながらスマホ」を頻繁に目にします)。
 自分だけでなく、ぶつかる、転ぶ、落ちる、などで、周囲の人を事故に巻き込む恐れもあるのに、そこまでしてスマホを見なければならない理由のある人が一体どれ位いるというのでしょうか…、もはや歩いている時ですらもスマホを見ていないと落ち着かない「スマホ依存症」と言っても決して言い過ぎではないと思います。

 日常の中でもルールを守らなったことで多くの事故が起きています。遊泳禁止の海に入って溺れたり…、入山禁止の冬山に入って遭難したり…、増水した川を見に行って流されたり…。優先席でのマナー・ルールがなぜ危機管理?と、大袈裟に思われる方もいるかとは思いますが、ルールを守ることにより防げた事故は数多くあり、1999年8月の「玄倉川水難事故」の例などは、その最たるものではないでしょうか。
 公共の場所でのルールをきちんと守ることが、まずは「誰にでも出来る身近な危機管理」と言えるのではないでしょうか。
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