危機管理業務部 主任研究員
 松並 栄治

 以前、大分県総合防災訓練(図上訓練)の支援業務を担当したのですが、主務として訓練の計画を作成するにあたり、大分県の事をよく知っておく必要があるため、インターネット等で大分県に関する様々な情報を収集しました。
 その際、昔、別府湾に大きな島が存在したが、地震と津波により一夜にして海に沈没してしまったという情報を見つけ、非常に興味をそそられました。
 その大分県別府湾に存在した島の話の前に、その昔、大西洋や太平洋の中央に大きな大陸が存在していたが、大地震・大津波・大洪水により、一夜のうちに海の底へと沈んでしまったという伝説に関する話に触れてみたいと思います。
15_01_海底のイメージ
< その昔、一夜にして海底に沈んだ伝説の島があるという >

 「アトランティス」や「ムー」という言葉を一度は聞いたことがあるという人は沢山いらっしゃるのではないでしょうか。遥か昔、大西洋に存在したとされる大陸が「アトランティス大陸」、太平洋に存在したとされる大陸が「ムー大陸」です。

 今から約1万2千年以上前、大西洋の真ん中にあった「アトランティス大陸」には高度な文明が存在し、飛行機、船舶、潜水艦、テレビ、ラジオ、電話等も使われていたそうです。しかし、そのような高度な文明を持っていたとされるアトランティス大陸ですが、地球への小惑星の接近・衝突に伴い発生した大地震・大津波・大洪水により、わずか一昼夜で海中に姿を消してしまった、という伝説があるようです。
15_02_アトランティス大陸地図
< 「アトランティス大陸」があったとされる位置 >

 また、「アトランティス大陸」が存在したとされる約1万2千年前、太平洋の中心にも「ムー大陸」という大陸が存在したという伝説もあります。
 ムー大陸は、南北約5千km、東西約8千kmもの大きさがあったと言われ、現在のハワイ、ポリネシア、ニュージーランド、イースター島など、太平洋に浮かぶ島々は、元は陸続きになっていたのではないかとも言われています。下の地図でも分かるように、日本の南の島はムー大陸の一部だったのでは?という説もあるようです。
 しかし、そのムー大陸のほとんども「アトランティス大陸」と同じような時期に、一夜のうちに海の底へと沈んでしまったとされています。
15_03_ムー大陸地図
< 「ムー大陸」があったとされる位置 >

 さて、ここからが本題ですが、日本における「失われた島」についてご紹介します。
 その島は、約420年前まで大分県の別府湾、大分市の西北3.3kmの位置に存在したと言われる「瓜生島」という島です。東西3.9km、南北2.3km、周囲12kmの島であったとのこと。
15_04_瓜生島地図
< 「瓜生島」があったとされる大分県別府湾内の位置 >

 大分県総合防災訓練(図上訓練)の支援のために私が大分県を訪れたのは、幼い頃に両親に連れられて行った別府温泉以来、2度目のことでした。
 高速道路から眺めた別府湾はとても風光明媚な所ですが、約420年前まではそこに瓜生島という大きな島が存在していました。島の真ん中には建物が約千戸、多くの船が各地から出入りして活気があったと言われています。しかし、1596年9月4日に豊後国(現在の大分県)で発生した慶長豊後地震とそれに続く津波によって一夜にして海に沈没、島の住人の大多数が犠牲になった、という驚くべき話が残っています。
 ちなみに、この慶長豊後地震というのは、平成28年4月に熊本〜大分にかけて発生した熊本地震と同じように、「中央構造線」の沿線で発生した地震だということです。

 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖の大地震、いわゆる東日本大震災では「想定外」の大津波が発生、東日本の太平洋沿岸を飲み込み甚大な被害を与えましたが、大きな大陸、大きな島が海の底へと沈んでしまうといったことまでには至っていません。
 しかし、地震・津波大国である日本では、この先、東日本大震災以上のもっと大きな、まさに天変地異のような「想定外」の事態が待ち受けているかもしれません。近年、日本のみならず世界的にも、地球温暖化などが影響しているのか、異常気象となっているのは周知の事実であり、また、ゲリラ豪雨などの大雨や風水害に代表されるように「何百年に一度の大雨」などという、これまでは「想定外」と考えられていたような現象がごく当たり前のように頻発していることからも、「アトランティス大陸」や「ムー大陸」の伝説、「瓜生島」の事例を日本に対するさらに大きな「想定外」の事態への警鐘と捉え、ハード・ソフトの両面から、考え得る万全の備えをしなければならないのではないでしょうか。そう言っても決して過言ではないと思うのです。
 以前、「日本沈没」という映画を見た時、「面白いけど、まさにSFのような話だ」と、どこか否定的に捉えている自分がいました。が、今は違います。「そんな事が起こるはずがない」、「現実的ではない」といったことが実際にいま起きているのですから…。