危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

 皆さんは、「10月17日は上水道の日」ということをご存知でしたか?
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 1887年(明治20年)10月17日に、横浜の市街地へ日本初の近代的上水道による給水が開始されたことが由来のようです。
 英国の工兵少将(土木技師)ヘンリー・スペンサー・パーマーの設計・指導により、水源を相模川支流の道志川とし、野毛山配水池に至る総延長約48kmを引水し、市街地へ給水を行いました。
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【 野毛山公園敷地内にあるパーマー少将の銅像 】

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【 野毛山配水池(横浜市西区) 】

 当時は、各家庭に水道を引くことも水道料金も高額だったために、道路に作られた獅子頭共用栓という共同の蛇口から水を汲んで使っていたそうです。
 そこで今回は、「10月17日:上水道の日」にちなんで、震災時における上水の確保に係る対策等について、ご紹介したいと思います。

 熊本地震は、2016(平成28)年4月14日に前震、15日に本震が発生し、熊本県内に大きな被害をもたらしました。
 上水道の被害については、2万1,000世帯で断水が発生し、熊本市で給水が再開されたのは発災から7日後の4月21日で、その他の地域では給水が再開されるまでに10日以上を要しました。
 熊本市によると、送水開始後も、当初は配水管から水が漏れて水圧が低くなっていたり、マンション等でポンプが故障していたことで、水が出なかったり濁ったりしている世帯も多かったということです。また、一部の配水管から水が漏れ続けているうえ、水道の使用量が急に増えると再び断水のおそれがあったため、市では節水を呼びかけていたようです。
 16日未明の本震後、水前寺成趣園(熊本市中央区)の池の水が急激に減り、底が露出する状態になったり、井戸水が濁ったりする現象が起きました。専門家は、地下の構造に変化が生じて地下水の流れが変わった可能性を指摘し、家庭の井戸水を飲む前に水質検査を受けるよう呼び掛けました(※熊本市周辺の地下水は、浅い場所と比較的深い場所の2層に分かれていて、その間には「布田層」と呼ばれる水を通しにくい層があり、地震によりこの布田層に何らかの変化が生じ、浅い地下水が深い場所へ落ち込んだ可能性を指摘)。
 熊本市が水道水に取水しているのは、大半が比較的深い地下水で、地震が水道に与える影響はあまりなかったようです。ただし、浅い地下水を利用する家庭の井戸は、水質に注意が必要でした。地下水の流れが変わった結果、これまでと同じ水質が保たれているか分からないためです。
 熊本市生活衛生課には、地震後、家庭の井戸水が濁ったという情報も寄せられたようで、同課では、家庭の井戸水は検査を終えるまで飲まないよう注意を呼び掛けました。
 このように、井戸がある地域でも、地震により水質の変化が発生する可能性は否定できません。もともと地下水が豊富な熊本市においても、地震によりこのような被害が発生しています。

 では、地震により断水が発生した場合の対策についてですが、地方公共団体の水道局で実際に行われている対策として、災害用地下給水タンク、緊急給水栓などがあります。
 災害用地下給水タンクは、通常配水管の一部として水道水が流れている地下式の貯水槽で、水圧が下がると流入・流出の弁が閉まり、飲料水が貯留される構造になっています。発災後おおむね3日間、地域の方々によって仮設の蛇口を取り付け、給水することができます。
 緊急給水栓は、災害時、地震に強い管に臨時の給水装置を取り付けて給水する施設です。おおむね発災4日目以降、水道局職員が断水状況を踏まえ、順次、仮設の蛇口を取り付けます。
 ご紹介した災害用地下給水タンク、緊急給水栓は、横浜市が行っている対策です。
 横浜市水道局では、被害を最小限に止めるため施設の補強を行うほか、配水池22箇所、災害用地下給水タンク134基、緊急給水栓358箇所等を災害時給水所として整備しています。また、応急給水資機材や給水タンク、ポリ容器を用意するとともに、水道施設の応急復旧に必要な器具・機材を備蓄しています。その他の対策としては、配水池、災害用地下給水タンクでの応急給水訓練を市民参加により毎年定期的に行っているようです。さすがは、日本初の近代上水が開始された都市ですね。

 このように、震災等が発生した場合においても可能な限り水道が使えるよう、自治体では、水道事業についても震災対策の主要施策の一つとして位置付け、予防対策及び応急対策の両面から計画的に対策を推進するなど、各種の取り組みが実施されています。