危機管理業務部 主任研究員
安藤 正一
令和元年も、我が国では各地で大きな自然災害に見舞われています。まずは、被災された方々に、心よりお見舞い申しあげます。
そんな中で、「多摩川氾濫はやはり「人災」だ、忘れられた明治・大正・昭和の教訓」という記事を目にしました。その記事の中で、「多摩川は、1875年、1896年、1910年、1917年、1974年と繰り返し氾濫している。それなのに、国交省京浜河川事務所が今回氾濫した場所についてどうすべきかとのテーマで昨年9月に住民とワーキングを開催したところ、「手をつけない、そもそも何百年に1度起こるかどうかわからない河川氾濫を心配しすぎるのはおかしい。」等の住民の意見もあった。」という部分が気になりました。昨今、何十年間と比較的短いスパンで災害が起きていない地域に居住している住民が、残念ながら、その地域で大きな災害が起きると、「まさか、この地域でこんな大災害が起きるとは思わなかった。」と振り返ることが、何度となく繰り返されているように思われます。
しかし、読者の皆さん、日本が世界で有数の地震の発生大国で、また、地球の温暖化の影響もあって、毎年のように強大な台風や短期間での局地的な集中豪雨に見舞われていることを認識し、私たち日本人は、どの地域に居住していても不断の防災意識と災害への備え、そして、災害発生時における「自分の身を守る」ための行動を確実に行う必要があるのではないでしょうか。
【 台風19号の影響で、川幅いっぱいの濁流が流れる相模川 】
実は、私が5年間防災担当者として勤務した関東地方の〇〇市でも、上記の記事と同様の防災よりも土地の価格が重要であるという住民意識がありました。○○市には土砂災害危険個所が約数十箇所あるのですが、土地の売買に際して、仲介業者が重要事項説明書に記載しなければならない土砂災害(特別)警戒区域が1箇所も指定されておりませんでした。その背景を調べると、平成20年に県が指定に向け崖地周辺の住民を対象とした説明会を開催したところ、一部の住民が「土地の評価が下がるだろう。指定には反対だ。」などの意見などもあって、結局、土砂災害(特別)警戒区域に指定されることなく保留の状況が続いているようです。
皆さんも、平成25年10月に伊豆大島が大きな土砂災害に見舞われたことを覚えていると思います。私は、防災担当者として、この災害を他の地域のことと見過ごすことが出来ず、今後に備えて危機管理課職員と協力して、市内の対象地域を回って、特に危険と思われる〇箇所について、土砂災害の危険が予想される場合に備えて電話連絡網の整備を進めました。なんと、将来に備えるつもりが、翌年の平成26年とその翌年の平成27年に、〇〇地方気象台は〇〇市に土砂災害警戒情報を発表したのです。このため、速やかに市は避難勧告を出すとともに、連絡網を活用して住民に避難を呼びかけました。しかし実際には、避難所に避難した住民は2回とも、わずか数家族でした。幸いにも、土砂崩れには至りませんでしたが、住民には災害に巻き込まれるまで「自分は大丈夫である(正常化のバイアス)」との意識が根底にあり、住民を避難させることの難しさを体験することとなりました。その後は、住民に対する防災啓発の重要性を改めて認識して、〇〇市は危機管理課、消防局、そして防災ボランティアと協力して住民に対して、身近な防災への備えと災害時の「自分の身を守る」ための対応について、更に積極的に防災講話、防災イベント、市民への防災各種資料の配布などを実施しております。
今一度、読者の皆様にお願いします。もし、この記事を読まれたならば、自分や家族のために防災への備え、そして、万が一の災害への対応について再度、ご確認して下さい。