危機管理業務部 主任研究員
 椿山 巖

 令和元年東日本台風と命名された昨年10月の台風19号は、関東地方や甲信地方、東北地方で記録的な大雨を降らせ、千葉県などにおいて、甚大な被害をもたらしました。この台風は、自治体の災害対応、特に都市部における避難所運営のあり方に、大きな課題を突きつけました。
河川増水01
< 大雨により増水した河川の様子 >

 今回は、東京都台東区で起こった避難所での「路上生活者(ホームレス)受け入れ拒否」について考えてみたいと思います。
 令和元年10月12日の午前9時30分頃、上野駅周辺で路上生活をしていた60代の男性が、台東区が開設した避難所(区立小学校)を訪れました。受付で「住所は北海道にある。」と言ったところ、区の担当者から「避難所は区民のための施設です。」と回答があり、受け入れを拒否されたということです。NHKの調査では、台東区以外に住む人や外国人旅行者は受け入れており、上記の説明で、路上生活者(ホームレス)だけを閉め出していたことが分かっています。
 台東区には、全国から300件を超える意見が寄せられ、7割は区への批判ですが、3割は区の対応を支持しているということです。
 同じく東京都豊島区では、避難所として開放した区役所庁舎において、支援団体に連れられた16人の路上生活者(ホームレス)を受け入れました。避難した地域住民の中には、多くの高齢者や乳幼児も含まれていたことから、急遽、路上生活者(ホームレス)に会議室を割り当てて対応しましたが、使用後の清掃を含め、多くの課題が残ったということです。

 災害対策基本法において避難所は、『避難のための立退きを行った居住者等を避難のために必要な間滞在させ、または自ら居住の場所を確保することが困難な被災住民、その他の被災者を一時的に滞在させるための施設』と定められています。
 路上生活者(ホームレス)については、国によって定義が異なりますが、特に日本では、「迷惑な人達」と認識されることも多いと思います。地域住民と路上生活者(ホームレス)が同じ避難所に避難することで、トラブルが起こることは容易に想像がつきます。今回の件も、そういった予想に基づく災害対応であったと考えられますが、避難所は「避難したすべての人を受け入れる」ことが原則です。
 路上生活者(ホームレス)の問題は、貧困や失業などと大きく関わっていて、災害時の避難所対策で解決できるものではありませんが、そもそも平時において、地域社会との繋がりを持っていないことも、受け入れ拒否となった原因の一つとして考えらます。そのため今後は、自主防災組織、自治体、支援団体等が十分に協議し、路上生活者(ホームレス)への対応要領を避難所運営マニュアルに記載しておくとともに、研修等の実施により、地域住民に周知、徹底することが必要ではないでしょうか。